監視者のパートナー
どさり、倒れた七人同行。
踏歌の身体から赤い染みが広がっていく。
まさに一撃だった。
びくりびくりと痙攣する踏歌。その周辺で妖能力達が消えて行く。
七人同行が倒れたので操られていた死体は普通の死体に戻ったようだ。
これはつまり、七人同行を倒した?
そーっと近づき、足先で突っついてみる。
反撃される気配は無い。
背後に気配。
一瞬びっくりしたが、掛けられた声で直ぐに息を吐く。
「お怪我はございませんか有伽様?」
「ええ。問題は無いわ。七人同行。一応倒したけどどうかな?」
「そう、ですわね」
私の言葉に背後からやってきた土筆が周囲を見回す。
「あれだけ殺気を放っていた妖能力は全て消えてます。死体が動く気配も無い。ほぼ確実に七人同行は駆除できた。と思ってよさそうですわ。やはり踏歌が元凶のようですわね」
「妾の索敵でも敵性分子はおらんのぅ。随分呆気ない気はするが?」
「死ぬ時なんて呆気ないモノよ。ヒルコ、ありがと。良くやってくれたわ」
ヒルコを自身の身体に纏わり付かせ、私は礼を言う。
震えている気はしたが、あえて何も言わないことにした。
今は下手に声を掛けても無意味だろう。
「そういえば、濡女は?」
「遠くの無人家に放置してきましたわ。取ってきます。少々お待ち下さいな」
なんとか、これで七人同行と濡女による暗殺は回避できたらしい。
後味は悪いがいつものことだ。これから先はきっともっとひどくなる。
近くに居る無関係の人を巻き込んで、逃走先の誰かを巻き込んで。
その都度嘆いていたら始まらない。
割り切れ。どうせもう、私に失って困るモノなんて何も無い。
「葛之葉。巻き込んで悪かったわね」
「構わん構わん。どうせ同じく追われる身じゃて。それで? この後どうするのじゃ?」
「行動開始するわ。元々は外国に逃げようとしてたんだけど。それはそれで面倒そうだし、ラボの本社近くで潜伏して破壊しに行く」
「そなたらだけでか!?」
驚きに眼を瞠る葛之葉。
「ここに居ても追われるだけならせめて刺し違えても相手を倒す」
「そうか。残念じゃなぁ」
葛之葉は付いて来る気は無いらしい。
まぁ、それでいい。彼女は本来関係ない存在なのだ。
今までと同じく根なし草で逃げ回って居ればいいんだ。その内、きっと私がラボを潰すから。
それまでは……
「お待たせしましたわ有伽様」
「屋敷の中に置いたままか」
「さすがにこちらに持ち運びたくは無かったもので、いかがしましょう?」
「七人同行や他のも合わせて海にでも流す? いや、紫鏡に収納しようか。よっちーが文句言いそうだけど、一番処理しやすいし」
「お前さん等死体に対して扱い酷くないか?」
「そう? ラボが相手なんだからこの位で戸惑っていられないわ」
押し黙る葛之葉を放置して、私達は戦場の後始末を始める。
しかし、森が一部とはいえ焼けたのに警察も消防も来てないな。
何か理由でもあるのか?
「尾取枝、降りて来なさい」
少し遠くにある木に擬態してくっついていた尾取枝を降ろすためにその木を思い切り蹴り飛ばす。
衝撃で裸螺が落下して来た。
地面に尻から落ちて「いったーい」とぶりっ娘している。
「酷いよ有伽ちゃんの馬鹿ァっ! 私人殺しになっちゃったじゃないかー」
「いや、トドメ刺したのあんたじゃないからね」
「ふえーんっ、もうお嫁にいけないっ、穢されたーっ」
アホか。
尻をペタンと付けた状態で両手を使って眼をこするように泣き真似始める裸螺。埒が明かないので小脇にかかえて葛之葉のいる場所へと戻る。
何しとるんだ? と小首を傾げる葛之葉の前に裸螺を投げ捨てる。
「あいたっ!?」
「尾取枝。警察も消防も来る気配が無いんだけど、理由分かる?」
「えー。ああ、それは多分……助っ人の彼だね」
「彼? っ!?」
言われた場所を見れば、にゅーっと立ち上がる黒い影。
一つ目のそれは直ぐに木の陰に隠れて消えた。
「今のは?」
「多分裸螺のパートナーだね。ノウマ君に決まったみたい。とりあえず今の所害は無いよ。多分一緒に有伽ちゃん見とけって言われただけだろうし」
信用できないぞアレ。
まぁいい、とりあえず今害が無いってことなら……
「ふぅむ。既に居場所がバレまくっておるのに打って出るとか普通に勝算ないんじゃないかの」
「そうでしょうね。でも少しくらいは……」
「今の状況じゃ逆立ちしたって無理そうじゃの。諦めて逃げよ。というかここでスローライフでよいではないか。それが一番じゃ」
「無理よ。何処まで逃げたって永遠に掛かる追ってにいつか殺される」
「うぅぬ。人間じゃものなぁ。寿命があると言うのは面倒なことじゃの」
あんたは無いのか? ああ妖怪だったな。つまり彼女は今の実力のまま逃げ続けることが出来るってことか。その力は羨ましいな。でも私には無い。無い物ねだりをする意味は無い。
それに、ここに居続けたって同じでしょ葛之葉? ラボから逃げ続けるのは、不可能なんだから。




