天井からのスナイパー
高梨有伽が小出葛之葉と共に東華踏歌率いる七人同行と闘っていた頃、寂れた洋館の中でも闘いは始まっていた。
長い廊下に閉じ込められた妖使い濡女。
彼女は必死に逃げていた。
否、逃げることは出来ない。
自身の尻尾を盾に銃弾から身を隠しながら出口を探している所だった。
敵は一人。されどもこの洋館内であればどこにでも出現する。
尻尾を使って何度か攻撃を行うも、直ぐに天井に引っ込んでしまうためダメージにならず、さらに別の場所から瞬時に現れ銃撃を行って来る。
下手な攻撃を放てば殺されるのは自分自身。
ゆえに再生能力を持つ尻尾を盾に銃弾から身を守っているのが現状だった。
相手は同じくラボの暗殺班だった女。
天井がある場所ならば自由に出現し、天井の中に異空間を作り移動する。
異空間の中には様々な武具が収められており、ソイツは武器を選んで幾らでも攻撃して来る。
今手にしているのはおそらくアサルトライフルの類だろう。
濡女には銃器に付いてなど良く分からないのでなんかハンドガンよりは長身の銃としか言いようがない。
獲物を追い詰めるように、遊んでいるように、そいつは絶えず移動しながら攻撃を繰り返す。
予想して攻撃しようにも何処に出るか本当に分からないので下手にどこかに攻撃を当てようと尻尾を動かしても確実に避けて射撃を行って来る。
そいつの名は天原土筆。天井下りという妖能力を持つ元暗殺者。
何を思ったのか抹殺対象だった高梨有伽を護衛し始め、ラボに反旗を翻したのだ。
とはいえ、高梨有伽を殺せなければ抹消確定だったのだから裏切るのは仕方無いともいえた。
きっとなんらかの利害が一致したのだろう。
御蔭で濡女は今元同僚から命を狙われることになってしまっているのだ。
思わず舌打ちすれば、ダダダダダと連続する発砲音が返答して来た。
尻尾で打ち払い、払い損ねたいくつかを尻尾を盾にすることで身体に貫通することを防ぐ。
御蔭で尻尾の腹部分には無数の弾丸が留まってしまっているが、これを取り出す余裕は無い。
尻尾の器官に痛覚が余りなかったのが良かった。
さすがに食いちぎられたりすればかなり痛みを伴うが、尻尾内に銃弾が押し込まれる程度なら我慢できる。
当然蚊に刺される以上の痛みはあるが、実際には存在しない器官であることと、切れば再生するものなので今は惜しげもなく尻尾を盾にしている濡女だった。
埒が空かないとでも思ったのだろうか?
銃器を変えたようだ。
現れたのはさらに無骨な銃。
否、それはただ銃と呼べるものじゃなかった。
無数の銃口。回転式の銃身。無数に繋がった銃弾の束。
さすがに正式名称などは知らないが、それが何と呼ばれる銃器かは知っていた。
そう、それの名は、ガトリングガン。
「お、おいおい、嘘でしょ?」
「あ、大丈夫、弾は沢山あるから」
「何が大丈夫だクソがッ!!」
土筆がトリガーを引いた瞬間、ようやく辿りついた曲がり角に濡女は飛び込んだ。
居残ってしまった尻尾が銃弾に晒される。
今までの連撃など及びもつかない連射の嵐。
尻尾が痛みを発し、思わず叫ぶ。
絶叫を発しながら尻尾を引き戻すと、そのほとんどが貫通した弾丸によりぐちゃぐちゃになっていた。
もはや尻尾とは呼べないそれは、直ぐに再生して尻尾へと戻る。
さすがに今のは焦った。
肩で荒い息をしていると、背後に視線を感じる。
まさか……ごくりと息を飲み後ろを見た。
金髪のゴシックロリータを着込んだ少女が笑顔で手を振っていた。
天井の中に足を突っ込んだまま、天井に立つように、そして濡女に向けガトリングガンの銃口を傾けて。
安堵の息が一瞬で止まる。
次第さぁっと血の気が引いて行く。
ダメだ、逃げた先に居るのはダメだ。
尻尾はまだ再生中。逃げ場がない。至近距離。
……あ、私、終わった――――
土筆は笑顔で引き金を引いた。
「ふぅ、なかなかしぶとかったですわね」
天井から降りて土筆は最終確認を行う。
一度相手が倒れた後も構わず撃ちまくった。
絶対に復活して来ないと確信するまで何度だって撃った。
尻尾が回復するのだ、もしかしたら身体だって再生するかもしれない。
だから念入りに殺すことにしたのだ。
そしてしばしの時を経て確認に動いた。
それもスナイパーライフルという細長い銃身を持つ一番遠くから突っつくことのできる銃器で突っついての確認である。
「だ、大丈夫ですわよね? 尻尾の再生も止まってますし、うん。大丈夫。大丈夫なはず。大丈夫……よね?」
余りにも心配だったのでとりあえず天井裏に連れ込み、適当な空き家の天井から投げ捨てておく。
ここなら復活してもまず戻っては来ないだろう。
そう思っての死体遺棄であった。




