七人の死者と無数の尾
「にょほほほほ、有伽よ、死人は全員妾が受け持とう」
「助かる」
ぶわり広がる七つの尾。
あの女狐、五尾とか言ってたのに今七尾じゃないか。
嘘付いてやがったな。
というか、これも本気かどうか怪しいところだ。
九尾だとか言われても不思議じゃないから驚かないぞ?
しかも七つの尻尾がそれぞれ死人一人を相手取り始めた。
中央に居る葛之葉は全く動いておらず鉄扇構えて悠然と佇んでいる。
そういえば、あいつおこぼれ山で殿務める時物凄い数の尻尾出してたな。
じゃあ五尾でも七尾でもないじゃない。実力隠しまくってんなら問題はなさそうだな。
アレは放っといても良さそうだ。
なら、私は……
草薙を構え直し、東華踏歌に視線を向ける。
さすがに自身が戦場に来た事は滅多にないのだろう。私からの殺気を受けて思わずたじろぐ。
残念だよ踏歌。あんたがラボの関係者じゃなければ、ヒルコと普通の友人になってくれてれば、殺し合いなんてしなくて済んだのに。
無言で駆けだす。
焦り始める踏歌は、しかし直ぐにサバイバルナイフを手にして構えた。
いくつも持ってるんだろうか? そもそもナイフよりも剣や槍の方が闘いにはいいだろうに。
アレか? この辺りで手に入るのがナイフだけなのか?
ラボに頼めよ。まぁその御蔭で私は危険な思いをしなくて済むんだけども。
「でやぁッ!」
草薙こと七枝刀を振り抜き一閃。
ぎりぎりで避けた踏歌に舌を吐きだす。
そこに握られていたのは尖れたフォーク。迷い家から拝借したモノだ。
まさか舌に武器が巻き付けられてるとは思わなかったか?
「くっ!?」
なんとか反応した踏歌。ナイフとフォークがかち合う。
さらに切り返しの草薙。
左の肘と膝で受け止めやがった。
「樹木子ッ!」
「ッ!?」
まさかと咄嗟にバックステップ。
少し遅れ木の根が私の目の前に大地を割り砕き出現。
後少し判断が遅かったら足に巻き付かれていた。
だが、能力を使ったせいか、屋良美織が態勢崩して尻尾の一撃を喰らう。
残念、アイツが相手してたのは料理上手の尻尾だ。
まだそれ使ってるのか駄狐。
気付けば一つの木が不自然に焼けた大地に佇んでいる。
どうやらゆっくりと移動させていたようだ。
面倒な。
「樹木子が居ればまだ負けた訳じゃないっ」
「随分な信頼じゃない」
「死ぬことのない不死身の体。巨大な盾、広範囲の根攻撃。今度はお前達が詰む番だ高梨有伽ッ!」
「にょほぉぉぉぉ――――――」
あの馬鹿掴まりやがった。
「ふふ、これで八対一ね」
葛之葉が根っこに足を取られて宙吊り状態になったので、死人七人がこちらにやってきた。
結局八人と私での闘いになるのか。役に立たない狐だ。
「にょほほ、これは参った。助けてたもれ」
「黙っとけ駄狐。自力で出来ないなら諦めろ、私はあんたが闘ってた奴らまで相手で忙しい」
「ちぇー、いいもん自分でやるのじゃ」
何がいいもん。だ。勝手に捕まっておいてよく言う。というか、自分で出来るなら私にいちいち言ってくんな。
ぼわんっと狐に戻る葛之葉。
人間の足を捕まえていた樹木子に操られた木は、狐と化した葛之葉を捕まえ続けられなくて放してしまう。
くるんっと着地を決めた葛之葉は落下して来た頭蓋骨を頭に乗せて再びぼわん。
彼女の変身には人間の頭蓋骨が必要らしい。
あの姿も元は生きていた少女を模しているのだろう。
そう考えるとかなり危険な妖怪なのではないかと今更ながら思う。
もしかして、私と行動共にしてるのも私が死んだ時に頭蓋骨奪って成り済ますため、とか?
ヤバい、そう考えるとアイツ本当に信用できないぞ。
しかも今捕まって私をピンチにしてる訳だし、これは、諸共に殺してしまった方がいいのかも?
「みこーんと来たのじゃ。今なんか凄い殺気が飛んできた気がしたのじゃ!?」
「踏歌からでしょ、手伝うのか逃げるのかさっさと決めて!」
「にょほほ、せっかちさんじゃのー」
鉄扇開いてにょほほと笑う。
本当に、仲間にしてるとイラつく女狐だな。
まぁ、敵になるよりはマシではあるけど、こいつと昔クラスメイトだった人たちの苦労が偲ばれる。
「では、旋風尻尾で一気にどーん」
「っ!?」
尻尾を一振り。
物凄い風圧でその場に居た全員を吹き飛ばす。
当然私も吹っ飛ばされた。
物凄いきりもみ回転しながら地面に突っ込み二転、三転。
受身を取れたから良かったものの、失敗してたら大ピンチだぞ今の!?
運良く血が出ることも無く立ち上がる。
かなり土がついて汚れてしまった。
だけど、私みたいに受け身を取れなかった死人達は軒並みぶっ飛び柵やらなにやらに激突。
踏歌も地面に突っ伏し愕然としている。
舌に草薙を絡めて踏歌の首めがけて伸ばす。
ぎりぎりで土を割って根が踏歌を弾き飛ばした。
緊急回避か。面倒な!
「ええい、樹木子邪魔じゃな」
駄狐は掌に火の玉を灯し、樹木子操る木に向けて投げる。
木は即座に燃え上がり、悲鳴を上げてのたうち始めた。
無数の根が地面を砕き、周囲に拡散するように蠢きだす。
「うぉう、なんぞヤバいくらいに動きおった。というか、こっち来た!? にょほぉ――――っ!?」
燃える大木根っこ蠢いて走る物体に追われる狐娘。自業自得だし放っておこう。




