導きの罠
「はあぁぁぁぁぁっ!?」
踏歌はその光景に思わず叫んでしまった。
振り向いた後ろ、海岸に繋がる森が燃えていた。
赤く炎を上げる森、風が吹いて燃え広がる速度が上がっている。
「ちょ、あの野郎まさか……」
「森ごと火を付けるか普通ッ!?」
炎は森を舐めるように、そして風に導かれ物凄い速度で広がる。
その光景に、思わず濡女は逃げだした。
踏歌もここで待ち続ける意味は無いと走りだす。
炎は前の森をも嘗めつくし、次第彼らの移動場所を無くしていく。
炎に追われるようにして、二人と操られた七体が走る。
東の方へ、自分から逃げているように見せかけて。
彼らは導かれるように洋館の前へと辿りつく。
真後ろの森が完全に燃えていた。
そして、目の前には草薙を構え、踏歌を待ち望む高梨有伽。
「嵌められた……」
気付いた時には遅かった。
にやり、笑みを浮かべる有伽の姿に、踏歌は苦虫を噛み潰す。
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私が行ったのは簡単だ。
葛之葉に火炎尻尾で奴らが待機中の背後から森に火を付けた。
後か風尻尾でここに誘導するように炎の動きを操っただけだ。
燃える場所が限定されるので踏歌が樹木子で使えそうな木々だけを焼き尽くさせて貰った。
御蔭でこの周辺は未だに燃えまくっているが、屋敷周辺は全く問題は無い。
さぁて、後は、屋敷内に連れ込めれば一番いいんだけど。
「高梨有伽ァッ!!」
最初に動いたのは濡女。
私の姿を見付けた瞬間尻尾の一撃で襲いかかってくる。
草薙の剣を使ってこれを一刀両断。
ビチビチと跳ねる尻尾を放置して血糊を刀を振るって飛ばす。
「尻尾で真正直にしか攻められない奴はお呼びじゃないんだよっ」
「このっ」
再生始めた尻尾を攻撃態勢に持ちこむ濡女。
こいつは適当に相手した方がいいか? いや、こうか?
相手の攻撃と受け、斬り払いながらゆっくりと、自然を装って洋館へと引いて行く。
「はは。威勢が良いのは最初だけじゃない!」
押してると勘違いした濡女が一気に前進して来て私の傍へ。
そのまま洋館の窓へと飛び込む。
事前に開けていたので不自然ではないだろう。
「っ! 待ちなさい濡女っ!!」
訝しんでいたけど気付くのが遅すぎだ七人同行。
濡女は踏歌の言葉を聞くことなく私を追って洋館内部へと侵入。
これまた自然に空いていた扉を潜ってさらに奥の通路に逃げる私。
尻尾攻撃を続ける濡女がさらに奥へと入り込む。
そして、天井から姿を現すスナイパーが扉を閉めて閉じ込める。
舞台は整った。
濡女はこのまま土筆に処理して貰う。
適当な部屋に入り込み扉を閉める。
私を追おうとした濡女だったが、突如背後から銃撃を受けたのだろう。驚く声が聞こえた。
後は土筆に任せて私は窓を開いて外へと飛び出す。
さらに苦い顔で私を待つ踏歌。
何が起こったかは察しているらしい。
「お待たせ踏歌。邪魔者は居なくなったわ」
「邪魔者……ね。まぁいいわ。私にはそもそもパートナーなんていらなかったのだし」
「でも、ここなら樹木子も磯撫でも使えないでしょ?」
「ああ、なるほど、それで勝ったつもりになってるの高梨有伽?」
別に勝ったつもりにはなってないけれど?
今でも結局八対一なのだし。
ほら、案の定踏歌だけその場に残って他の死人全員で攻撃に来た。
燃え続ける森をバックに七人の男女が襲いかかってくる。
一度でも掴まれば後は殺されるだけだ。
相手は何度殺しても生き返る。
確かに、かなり不利になるだろう。
私、だけならば、だ。
「にょほほ、雷撃の嵐なのじゃ!」
トラブルメイカーながら火の後始末を終えた葛之葉が合流する。
踏歌への攻撃だったのは奇襲させることと、自身に意識を向けることで死人達を操る能力が意識の範囲でどれだけ操れているのかを見る為でもある。
御蔭である程度視認しながら指示出しをしていたことがわかった。
こちらから意識を外した御蔭で何の指示も貰っていなかった死人たちは私を捕まえようとはするものの、ただ無謀に近づくだけになる。
連携攻撃などはやはり踏歌が意識をこちらに向けていなければいけないようだ。
「なっ!? くーちゃん!?」
「にょほほ、まだくーちゃんというか。まぁなれとは話が合ったからのぅ」
「なら私達は闘う必要は無いでしょうっ。私達が狙っているのは高梨有伽だけよ!?」
「残念じゃがラボに狙われとるのは妾もでな。遅かれ早かれ狙われるのならば抵抗勢力のおる今のうちに共闘するに決まっておろう。所詮は敵同士闘い合う運命じゃったのじゃよ」
うっうと泣き真似をする葛之葉。
正直うわぁと思わず呆れかえる。アイツホント女狐だわ。




