逃走するか、未だ残るか
七人同行は海に消えた。
おそらくどこか遠くに逃げたのだろう。
面倒だが磯撫でとかいう妖使いを何とかしないと海辺での闘いは難しいだろう。
七人同行の本体が踏歌であると分かっただけでも良しとすべきだろう。
全く、したり顔で友達面して近づいてくるとか、悪辣だよ七人同行。
しかし、アイツに出会えば衰弱死するとかの七人同行スキルは発動させていないみたいだが、なぜだろうか? その力があれば私だってもう衰弱死していたかもしれない。
まぁ周囲を巻き込むからってことかもしれないけど。
砂浜から移動しようとした私だったが、目の前に現れた迷い家に足を止める。
さすがに早い。
扉が開かれ雄也、根唯、葛之葉、土筆が現れる。
上は無事に征圧できたようだ。
「ヒルコさん、踏歌さんは!?」
「逃げたわ」
「逃げた?」
「土筆、島を脱出するわ。休息はもう終わり」
「え? ヒルコ……じゃない? もしかして、有伽!?」
さすが土筆というべきか。雰囲気だけで私とヒルコの違いに気付いたようだ。
「え? 有伽さん記憶戻っただか!?」
「迷惑掛けたわね根唯、雄也。だけどこれ以上迷惑掛けられないから出てくわ」
「ちょ、待てよ有伽さん、いきなりすぎだろ。まださよならパーティーもしてないぞ」
んなもんやってる暇なんてないだろう。馬鹿なのか? ああ、頭暖かいお花畑の人だったな雄也は。
「そうだべ、いきなりすぎっぺよ」
「いきなりでも当然のことでしょ。私は既に言ってましたわ。敵に追われてる、追ってきたら逃げる、と」
「そりゃそうだけども……」
「とにかく、一先ず迷い家いかんかや? 逃げるにしても一度情報共有させて貰いたいところなんじゃがの? ヒルコもアレじゃろ? 逃げた後に七人同行にクラスメイトがまた殺されて操られとったら後味悪かろ?」
なるほど、その可能性は確かにあるか。彼らの安全確保もやっておいた方が良いかもしれない。
「仕方ない。少しだけよ」
葛之葉に誘われ、仕方なく迷い家へと入る。
一応この面子は安心しても良い存在なので問題は無いだろう。
全員が入ると、雄也に異界に潜るように伝えておく。
居間にやってくる。
ヒルコの奴、私が意識取り戻したと知るや完全に補助に徹しやがった。一言もしゃべらないでやんの。
ちゃぶ台を囲んで皆で座る。
たった五人。されどここの住民全員だ。
私、土筆、葛之葉、雄也、根唯の順でちゃぶ台を囲む。
若干土筆の距離が近い気がするのは多分気のせいじゃないだろう。
こいつの場合、出会いがしらの挨拶が「おはよう」じゃなくて、「好き」となりそうなくらいべた惚れなので仕方は無いといえば仕方無いのだけれど。
「さて、まずは雰囲気変わったことと踏歌の行方を聞かせて貰おうかの」
「雰囲気が変わったのは貴女が話しているのがヒルコじゃないから、じゃない? 踏歌については彼女が七人同行の本体だった。バレたから逃げた。それだけのことよ」
私の言葉に葛之葉は驚いた顔で土筆に視線を向ける。
「まさかと思うのじゃが……」
「有伽様がお目覚めになられました」
「おっふぅ、マジかの。随分と冷めた女じゃな」
「いろいろあったからね」
本当にいろいろあった。
出来れば身体をヒルコに任せてずっと寝ときたい気分だ。
残念ながらそういう訳にも行かないのが現実だ。
「やっぱり踏歌さん、スパイだったのか」
「去年の夏より前の集合写真に載って無かったから驚いたべよ」
どうやらヒルコを送りだした後、彼らは卒業アルバムを引っ張りだして確認していたらしい。
すると、踏歌はいつのまにかクラスメイトになっていたことに気付いたらしい。
多分だけど、葛之葉がやった手法に似ていると思う。
この島の住民、多少おかしい存在が居ても普通に受け入れるみたいだし。
むしろ受け入れない方が変わり者扱いされる村だからな。
七人同行が潜入するのは楽だったに違いない。
「なんにせよ有伽さんに怪我がなくてよかったよ」
そりゃどうも。心から心配している雄也にありがと。と返しておく。
若干棒読みだったのは気のせいだとしておこう。
「で、これからどうするつもりじゃ?」
「逃げるわ。離島じゃ逃げ場も少ないし、本土に逃げるのがいいかな」
「つまり、また七人同行に追われ続ける訳じゃな」
「……他に方法でもあるの?」
「なんじゃなんじゃ。七人同行に追われ続けたいのかの? 別に、倒してしまっても構わんのじゃろ?」
どっかで聞いたような台詞をドヤ顔で告げる子狐娘。
倒す、と簡単に言うけれども……
「七人同行、濡女、磯撫で。少なくとも三体の妖使いが来てるわ」
「にょほほ、こちらは五人もおるぞ? ヒルコ合わせたら六人じゃ」
そりゃ人数的にはそうだけども……
葛之葉の単純思考に頭を抱えたくなる私だった。




