温かな食卓・1
「いただきまーす」
手を合わせて、彼らは一斉に食事を始める。
中学一年合計25名。この25名がこの学校の一年生全員である。
島民だからなのかとても仲が良い。
ちなみに有伽は都会では二年生だったみたいだけど、根唯が一年だったので記憶を無くした有伽も一年としてこの学校に転入している。
円状の食卓が5脚。これに5人ずつ陣取り、食事を行うのだ。ワタシのところだけワタシがプラスでいるので六人座っている。
ワタシがいるところにはイガグリ頭の近衛雄也。こいつが今いる屋敷、迷い家を操る妖使いである。
確かに便利ではあるんだけど、扱う存在が雄也なのでそこが問題だと思う。
彼、基本天然入ってる上に楽観論者なのでほのぼのしたこの島では自宅として学校の敷地内に迷い家出現させまくっているのだ。
何処にでも出せる家だからそこはまぁ、問題無いと言えば問題ないんだけれど、それでも校庭のトラック中央に出されると流石に迷惑だ。
二年や三年、小学年組からかなり抗議が来る。特に昼食終了後はサッカー場として活用されるため邪魔なのだ。
結局そういった理由で校庭の隅っこに出現している状態だ。
一年生が全員集合しているのは、食費が浮くからに他ならない。
学年が違うから二年や三年は遠慮して来ていないみたいだけどね。
雄也は皆来ればいいのに、とか言っていたけど、流石に全学年がここに入るかどうかと聞かれると否としか言えない。
他にも、赤峰根唯という少女がいる。
本人はソバカス塗れの顔が嫌いらしくあたしあんまじ可愛ぐねぇし。とかなり引っ込み思案になっている言葉遣いがおかしな娘だ。
ワタシとしては可愛いと思うんだけどね。必死に雄也にアプローチしてる姿、子犬みたいで好きだよ?
この二人とともに同じ食卓を囲んでいるのが、残り二人の少女。
東華踏歌と為替梃。
名前と名字が一緒の踏歌はショートカットのワカメ髪。海で泳ぐのが大好きなせいか色黒な少女である。凄く人懐っこく、そのせいか声も大きい。
梃の方もまたやかましい。ツインテールになぜかパッドを被せ中華系な髪型をしている彼女は軽音部という部活に所属している。
二人とも明るい少女たちである。ワタシが物静かなのを見てなんとかリア充に引っ張り込もうとこうして同じ食卓で食事をしているのであった。
そして最後に今、食卓前に座ったのが嘉敷縷々乃。背が小さくおかっぱ頭の少女である。
人懐っこく、様々なクラスメイトと交流を持っているのだが、時折黒い笑みを浮かべているちょっと怪しい娘である。
ちなみに、この食卓に居るメンバー全員が妖使いだったりするのだが、普通の人間もクラスメイトにごちゃ混ぜなのに妖能力や欲を隠すようなことは無く、滅茶苦茶目の前で欲望発散していたりする。
なんでも都会と違って妖使いに偏見が無いそうで、この島の住民は全て妖使いだからといって蔑んできたりはしないそうだ。
北海道近辺のゴキブリになった気分である。
寒い地方にはゴキブリ出ないそうで忌避感無いんだって。
あれって熱帯型昆虫だったんだなぁって感心したのを覚えてる。
妖使いにとっては過ごしやすい土地だと思う。
ワタシとしても追われる身でないのならばこの土地に骨を埋めるのもやぶさかじゃない。
でも、今は無理だ。こうして団欒できるのもあと幾許の猶予があるのだろうか?
いつ捨てることになっても後悔しないよう、彼らとは線引きをさせて貰っている。
プライベートな場所までは絶対に踏みこませない。
ぐいぐいと来るが今も必死に押し返しているのだ。
下手に巻き込みたくもないから、絶対に深入りはさせられない。
「えっへー。今日も今日とて卵ごっはん~」
「ぱかっと割ってぷるんと震えてぱっと割ったらかきかきまぜまぜ~」
「えーっと、白が黄色に醤油で茶黄色まっぜまぜ~」
踏歌、梃、縷々乃が変な歌でも歌うように卵かけご飯を作っている。
本日のお昼ご飯は御飯と卵と海苔、煮魚、大根煮付け、野菜サラダにお味噌汁。
和を重視したような食事は殆ど毎日のことである。
それもこれも迷い家としての能力によるもので、洋風や中華系の食事はまずでない。というか作れない。
そこが欠点と言えば欠点なのだが、用意する必要も無く用意される食事なのだから文句を言える筋合いが無い。
「まぜまぜまぜたらTKG~。これが元祖だたまごかっけごっはん~」
ばばーん、と真上に茶碗を持ち上げる三人娘。
そこにカメラでもあって映してるんだろうか?
ただの卵かけご飯を頭上に掲げる意味が分からない。
「ほら、最近話題の歌手いるじゃんかー。八祖神九十九って歌手」
「あー、うん」
歌手……テレビは見てないし有伽も見ようともしてなかったから話題の歌手とか言われても困るのだけど。
「彼女が最近CMソングとして歌ってる曲だよ? 少し前は焼肉愛歌歌ってたし」
なんだその歌手、焼肉をこよなく愛する歌を歌う人とか卵かけご飯の歌とか、ちょっと応援したくない痛キャラ系歌手なんじゃ……