逃亡二人
「全く、貴女まで掴まってるとはどういうことですの」
「にょほ!? おお、お主か。なんで神社の中から出て来たのか知らんが、妾は別に負けた訳ではないぞ。ほれ、これを貰ったのじゃ」
「なんですのこれ?」
救出に来た土筆は、境内に腰かけていた葛之葉と踏歌の元へとやってきた。
すると、葛之葉から何かを渡されたのだ。
四つ折りにされた紙だったので開いてみると、つかまれ。と拙い文字で書かれていた。
まるで満足に手が動かない誰かが必死に書き綴ったような文字である。
「これ、誰から?」
「ヒルコが別れ際に渡して来たぞ?」
「ヒルコが?」
そんな馬鹿な?
小首を傾げる土筆に、あっとくーちゃんが背後を見る。
「逃げろ小娘、来るぞ!」
「っ!!」
刹那、神社の社をぶち破って、尻尾が背後から襲いかかって来た。
咄嗟に飛び上がる土筆が天井に消える。
くーちゃんは踏歌を引っ掴むとその場から飛び退いた。
社が爆散する。
濡女の一撃が御神体を破壊したのだ。
「チィッ。予想通りの救出法取りやがったのに逃したッ」
「馬鹿ね。あんな周り道したらバレるでしょ」
「でもよぉ七人同行、ほら、天井破壊したから天井下りは出て来なくなっちまったぜぇ」
「あら、確かに。これは僥倖」
社が崩れたせいで天井部分が地面に接地してしまい、土筆の出現路がなくなってしまった。
御蔭でワタシのプランは完全に粉砕された。
「にょほほ、仕方無いのぅ、ほれ、踏歌、梨伽とやらの場所に行くが良い。ここは妾が任されよう」
え? 負けて掴まったのにまた全員相手取って殿務めるって言うのくーちゃん? 頭大丈夫?
ワタシが呆気にとられていると、踏歌が駆け寄ってきた。
目の前には七人同行。背後にも七人同行が六体。
そっか、これで七人同行全員集合した訳か。
でも、全員が全員どれだけ倒しても突っかかって来る。
もしかしてだけど……屋良さんが七人同行の本体だったりするのだろうか?
確かに、彼女には攻撃は加えてない。
つまり死んでるかどうか分かっていない状態なのだ。
けど、あの姿はどう見ても操られているようにしか見えない。
つまり、七人同行は別の誰かで、死体を操っている筈なのだ。
だから、濡女の隣に居る女性の方が七人同行本体の可能性が高い。
だって、意識あるし喋れるし。
「にょほほ、それじゃあまぁ大盤振る舞いといこうかの」
ぶわり、五つの尻尾が膨れ上がる。
って、なんか物凄い数の尻尾が出て来たんだけど!?
「すまんのぅ五尾狐と言ったがありゃ嘘じゃ。尻尾大量にあるから普段は五つだけ見せとるだけじゃ」
これが、くーちゃんの奥の手!?
「さぁ、逃げよ梨伽たちよ。妾がここは任された!」
確かに、あれなら大丈夫かもしれない。でも今の死亡フラグだよね?
急激に霧が立ち込める。
これもくーちゃんの能力らしく、ワタシと踏歌にだけは道が開かれる。
こちらを辿れば安全に脱出できるようだ。
「行こう踏歌!」
「え? でも……うん、分かった。無事に逃げてねくーちゃん!」
くーちゃんに別れを告げて、ワタシたちは山を下っていく。
霧が晴れる所まで来ると、頂上付近で落雷が起こったり、風が不自然に巻き起こり、炎が迸り、氷が降りといろいろな怪現象が起こっている。
本気モードらしいくーちゃん、なんか凄い強いのかもしれない。
だからこそなんで踏歌と一緒に掴まってたのか不思議でならない。
何か考えがあったのかな?
まぁ、今は考えても仕方ない。
砂浜にある迷い家まで逃げ切ろう。
だが、砂浜へとやってくると、そこには何もなかった。
既にどこかに移動してしまったらしい。
学校に部活動でもしに行ったのだろうか?
「あれれ? 居ないね?」
「そう、だね。どうしよう?」
だから、二人して途方にくれるしかなかったのだった……
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おこぼれ山の山頂に、それは唐突に現れた。
迷い家である。
扉を開くと同時に飛び出して来た雄也と根唯は、山頂に一人佇む葛之葉を見付けて疑問符を浮かべる。
「おお、なれらこっちに来たのかや」
「状況は?」
「七人同行どもは逃げおった。散り散りだったので追えんかったわ。濡女は、そこで伸びとる。放置でよかろ」
「有伽さんは?」
「ん? 踏歌と逃げたぞ。おそらく海辺ではないかの、迷い家に逃げ込むつもりだったのではないか?」
「なんてこった。有伽さんが危ないッ」
「え? どういうことじゃ?」
葛之葉の言葉を無視して迷い家に戻る雄也たち。
慌てて葛之葉も迷い家へと入り込むのだった。
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これからどうしよう?
海を見つめながら困った顔をするヒルコ。
その背後で、東華踏歌はゆっくりと懐からサバイバルナイフを取り出した。
ヒルコの背中から心臓向けて、振り被る。
ヒルコは、それに気付くことすらなかった……




