一人きりの闘い
「じゃあ行ってくるね」
七人同行たちは境内付近には居なかったらしい。
多分中腹辺りでワタシを待ってるんだろう。
あの海女も、だ。
「では、私も待機しますわ。生きて、有伽様とまた出会えると信じて」
「うん、行ってくる」
土筆が天井に消え、ワタシは迷い家を出る。
不安げな根唯に別れを告げて、能天気に手を振る雄也に苦笑して。
さぁ、盛大に陽動しないとね。
そして土筆とヒルコが出て行った迷い家。
振っていた手を降ろした雄也はん? と小首を傾げる。
「どうしたべな雄也?」
「ああ、いや、ふと思ったんだけど、アイツっていつから俺らと一緒のクラスだったかな、と」
「ん?」
「ちょっとアルバム見て来る」
雄也が意味不明な事を言いながら迷い家の中へと去っていく。
「ちょ、待ってっぺな」
ガラリ、ピシャと玄関を閉める根唯。
玄関が閉められたことで迷い家がゆっくりと現世から消え始める。
蜃気楼の如く揺らめき、空気に溶け込むように消えて行った。
「で? どうしたっぺよ?」
「やっぱりだ」
迷い家の中にあったアルバムを引っ張りだし、雄也が調べ物をしていた。
物珍しいモノを見たといった感じで根唯が覗き込む。
なにがやっぱりなのか? 雄也は得意満面指差した。
「これ、去年の集合写真。俺の記憶じゃこの前の夏の時にさ、あの事件あっただろ? でも、ほら」
「え? あれ? これ……」
「つまり、皆が危険、なんじゃないかこれ?」
「嘘だべな!? ありえんってよ」
驚愕する根唯を放置して雄也が立ちあがる。
「こうしちゃいられない。助けなきゃ!」
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おこぼれ山へと向かう道。
車道が終わりけもの道への変わり目。
枯れ葉だらけの道をワタシは一人歩き行く。
不安しかない木漏れ日少ない山道。
時折ざわめく木々が不安をさらに煽る。
枯れ葉を踏みしめる音がいやに耳に残る。
怖い。
いつ、どこに敵がでてくるかもわからないが、確実に出てくることだけは分かっているのだ。
正直進まずに済むなら喜んで踵を返しているところだ。
有伽の身体もこころなし動きが重たい気がする。
20分程歩く。
中腹程にやってくると、ようやく目の前に誰かが現れた。
七人同行の屋良美織。
気付いた瞬間背後に向かって山から斜面を下りてくるサラリーマンとOL。
サラリーマンは勢い付き過ぎてそのまま斜面を転がり落ちて行った。
出来る事なら皆してそれを笑ってやりたいところだが、七人同行は全て死者。
屋良サンだって笑いもしない。
シリアス状態なのにワタシだけ笑うのもおかしな話なので、仕方無く背後のOLに気を配りながら目の前の屋良サンを睨む。
彼女はもう、死人だ。いつから死んでたかは知らないけど。でも、倒さなきゃ。踏歌たちを助ける為に。
体内に入れていた草薙を掴み引き抜く。
頼むよ草薙。有伽とワタシを守って。
駆け上がる。
ナイフを持った屋良サンが駆け降りる。
ワタシは足側に伸びて一気に有伽を上昇させる。
突撃して来た屋良サンを真上に飛んでやり過ごす。
そっか、有伽の身体を動かすよりも自分が動く方が速く動けるや。
身体のバランスの為に少しだけ有伽の身体に残し、後の全体で足元に四つの足を作りしゃかしゃかと動く。
全体的な容姿を見ると女性の体を持つ蜘蛛になったみたいだ。
アラクネって奴ね。
速度が上がった御蔭で坂下に居る七人同行たちは追って来れない。
あとは確かおばさんと子供が……後ろに降りて来たね。
間抜けかっ。
さっさと山頂を目指す。
最後の階段を登り切る前に有伽の身体に纏わり付く通常状態に戻っておく。
アレはある意味最終手段に使えるからね。逃走に使える状態だから敵には出来るだけバレないようにしないと。
神社へとやってくる。
そこに居たのは、境内の階段に座っていた踏歌とくーちゃん。
そして少し前に出た場所に腕組みして待っていた海女と七人同行最後の一人。
「あはは、本当に一人で来てるじゃない。馬鹿なの?」
「それでも、他の六人を突破して来たのだからそれなりに出来るわね」
ごめん、そのほとんどが間抜けだったよ。
「二人を返して貰いに、来たよ」
「あんた一人で? 無理だろ」
草薙を手に私は駆ける。
有伽の身体が今はかなり扱いやすくなってる。
有伽もあいつらを倒したいんだね。ワタシ、がんばる。
こちらに走りだしたのは七人同行。
遅れるように海女が尻尾による攻撃。
七人同行を追い越しワタシに一撃。
剣が自動で弾き切る。
が、直ぐに突撃して来た七人同行がナイフを心臓向けて突き刺して来る。
剣を振り切った有伽の身体では対応できないのでワタシがカウンターで触手伸ばして顔面パンチ。
がっと仰け反った七人同行を蹴りつけ距離を取る。
背後から他の七人同行が追い付く。
そしてワタシの目の前では、海女たちの背で神社の天井からぬぅっと姿を露わした土筆が踏歌とくーちゃんに合流していた。




