奪還作戦
「さて、どうしましょうね」
ワタシたちは一度迷い家に逃げ込み、異界に入った状態を維持していた。
これの御蔭で敵がここに攻め寄せて来ることは無い。
「踏歌助けにいかんだか!?」
「私の目的は有伽様の安全確保。敵しかいないうえにどんな罠が張り巡らされてるか分からないおこぼれ山に行く意味がありません。しかも、有伽様一人だけでなんて」
「ひ、一人じゃないよ、ワタシもいるし」
「ヒルコ一人、と言った方が良いのかしら? 有伽様は意識が無いんだから有伽様を守れるのは貴女だけになるのですわよ」
「神社があるべ。山頂に行けばあんたも出現できるでなか?」
「敵が山頂に居るとは限らないでしょう。おこぼれ山に来い。とだけなのだから」
確かにその通りだ。
山頂ではなく中腹辺りで襲撃される可能性が高い。
そうなると土筆は完全に頼れなくなる。
有伽を救えるのがワタシだけになってしまうのだ。
「でも……踏歌を見捨てるなんて……」
確かに、有伽の安全を考えるならフェリーに密航して逃げるのが一番だろう。
でも、それでいいのか?
ワタシたちが仲間を見捨てて、有伽に胸を張って守ったと言えるのだろうか?
「ごめん土筆、ワタシ、踏歌助けに行きたい」
「だからそれは……」
「有伽だったら……有伽だったらきっと、見捨てない。見捨てず助けて、その後逃げる。違う?」
「それは……」
だって有伽は、最大の親友を見捨てたりなんてしなかった。手を尽くしてがんばって、それでも届かなかっただけ。
だから、有伽はきっと助けに行く。
「行ってくる。もしもダメだったとしても、有伽だけは助けるから。だから、皆に力を貸して欲しい」
「ん、俺たちも行けばいいのか?」
「いや雄也、ヒルコさんだけ来い言われとったべな」
「あ、そっか。んじゃ、どう手伝えば?」
「雄也は異界からワタシがピンチの時に助けに来てほしい。最悪有伽だけでも屋敷に入れるから、有伽の身体が迷い家に入ったらワタシが入って無くても迷わず異界に逃げ込んで。後は土筆に任せる」
「あなた死ぬ気?」
「まさか? ワタシだけなら地面に溶け込めるから逃げ切れる可能性があるだけよ」
なるほど、と納得する土筆。
ワタシが軟体生物だってこと忘れてたな。
「それで、罠があるのにただ正面突破って訳じゃないのでしょ?」
「まず土筆は神社の軒からバレないように偵察をお願い。相手の状況を見た後一人で行く。それで、ワタシに意識が向いたら踏歌は土筆が助けて。助けられたら皆で迷い家の中に逃げ込んで異界に逃げる。後は遠くの場所に迷い家出現させれば無事に逃げ切れる」
「はぁ、全く貴女は……」
穴だらけとはいえ奪還出来る方法を提示されたせいで溜息を吐く土筆。
やりようによっては確かに安全に逃げられる奪還方法である。
「いいわ。近衛さん。元の場所に戻ってくださいまし。まずは偵察に向かいますわ」
「了解」
「あ、待って土筆さん。せっかくだからおまじないしてって」
と、入口まで連れて行き、玄関前で根唯が火打石を片手と口で合わせる。
「なんですのこれ」
「座敷童子の交通安全祈願だべな」
貴女に不幸がありませんように。幸福の使いがわざわざ祈願してくれたらしい。
「では行って来ますわ」
扉を開き、軒下にやってくると天井へと飛び上がる土筆。
見送りに出た根唯は、土筆が消えたのを見送ってふと、気付く。
「あーっ、あたしの義手、波間まで戻ってきとるでねぇか。らっきー」
とか言いながら外へと出て行く。
玄関前にやってきたワタシと雄也は海岸にしゃがみ込んで義手を拾い上げる根唯を見て、あははと苦笑し合うのだった。
「おまたせ、ですわ」
「戻ってくるの速いよ!?」
「向こうの天井から覗くだけですもの、すぐですわ」
「で? どうだったべな?」
義手を回収して来た根唯が尋ねる。
まだ義手を嵌めようとしてないのは、海水に浸かったうえになぜかタコが絡みついていたからだろう。
雄也がタコを引っぺがして今日の食事だな。とか言いながら家の中へと去っていった。
食材は貯蔵庫に入れておけば勝手に消費されるらしい。
それもそれで怖いけどね。
「それがね、確かに踏歌さんは居たんだけど、なぜか葛之葉さんも捕まってたわ」
「くーちゃん……」
「あの駄狐、五尾がどうの、妾強いとか言ってたくせに、ざまぁないわね」
「くーちゃんトラブルメイカーだから……」
ワタシたちは残念狐に対して溜息を吐く。
まさか救うべき人が二人に増えるとは。
「ただ、一つ気になることがあったのよね」
「気になること?」
「葛之葉さんと踏歌さん、普通に境内で話してたわ。拘束されたりもしてないから逃げようと思えば逃げられる状態。どうなってるのかしら?」
なんだそれ? 軟禁状態?
ワタシたちが戻ってくるからと信じてるってこと?
それとも、それこそが相手の罠?




