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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 濡女
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禍福を統べし者

「大丈夫か梨伽さん」


 雄也に起こされ、ワタシは立ち上がる。

 正直かなり驚いてる。

 まさかこの二人が助っ人に来るなんて。

 でも、来たところでどうにも……


「雄也、有伽さんたち守ってな。あっちのお姉さんはあたしが相手する」


 ちょ、ちょっと? 根唯が相手するって、相手は濡女。下手したら海の中に引き込まれるんだよっ!?


「なぁに、嬢ちゃん。悪いんだけど用があるのはあっちの娘なのよね。邪魔するなら、殺すわよ?」


「殺す殺す、あんたらみたいんはみぃんな同じ事しか言わんべな」


 右腕が無いのが凄く違和感を覚えるのだけど、根唯は気にした様子も無く濡女に対峙する。


「一応、先に伝えとくべよ。あたしな、妖は座敷童子だべ」


「へぇ、それが何? 私は濡女、よっ!」


 言葉と共に尻尾に力を入れる。

 海から飛んで来た尻尾が根唯に絡みつく。

 ……と、思われた次の瞬間、濡女の悲鳴が轟いた。


 ギャアァァとまるで身体の一部を引き千切られたように叫ぶ濡女。

 何が起こったのか分からず呆然としていると、雄也が笑みを浮かべる。


「大丈夫だ。根唯は敵対して来ると分かってる相手には無敵なんだ」


 無敵……?

 左腕に巻き付いた尻尾を強引に引っ張る根唯。

 すると、尻尾の先っぽがのたうちながら海から引き上げられる。

 そこに濡れ女との接点は無かった。

 途中で赤い液体を撒き散らしながら断裂している。


「あー、運が悪かったなぁあんた。海の中で蛇を見付けた鮫に喰われたべか」


「う、嘘よ、なんで、今までこんなこと一度も……」


「じゃあたまたま、今回だけ運が悪かったべな」


 そんな訳があるかっ。

 叫ぶ濡女に根唯はゆっくりと近づいて行く。

 なんか根唯の方が強者に見える歩き方だな。

 全身から自信が溢れてるみたいだ。

 そんな根唯の凄みを感じたのか、濡女が一歩下がる。

 その間に尻尾が再生しているのが厄介だ。つまり、切り裂いて終わり、という訳にはいかないらしい。

 

「何よ、何なのよあんたは!」


「言ったべな。座敷童子の妖使いだべ。座敷童子ってなぁ普段はな、座敷同士を繋いだり悪戯したり子供と遊んだりするだけの妖だべや。でもな、座敷童子の容姿ってなぁ、必ずどこかに欠損があんだがよ」


「け、っそん?」


「そう、例えば、右腕が無い、とかなぁ。そうなると、もう一つの能力が開花する。禍福を扱うんだ。ほら、座敷童子が住む家は富むとか、居なくなると没落するとかいうべ?」


「ま、まさか、あんたの妖能力って……嘘よ、袈裟羅婆娑羅じゃあるまいし、幸福を司る存在だなんて……」


「ここで諦めて帰ってくれれば問題ねぇだがな」


「そりゃ無理って相談だわ。それに、私が何かするまでもなさそうね」


「え?」


 相手が禍福を使うと理解した濡女は、直ぐに踵を返す。

 徹底抗戦となるだろうと思っていた根唯は肩透かし喰らったように呆けるが、濡女はワタシたちを追うことを止めて砂浜を去っていく。


「な、なんだべ急に? 逃げる気は無いって言ったべや!?」


「ええ、逃げる必要は無いわ。だって、貴方たちに逃げ場は無いのだし、それに、逃げる気にもなれないでしょう、アレ見たら」


 アレ?

 濡女が指し示すのは海岸の先にある道路。

 ワタシが視線を向けると、そこには三人の女性が立っていた。

 いや、違う。

 踏歌と、その背後で踏歌を拘束する屋良サン、そして、七人同行。


「屋良さん!? それに踏歌!」


 根唯もまたそれに気付く。

 同時に駆けだす濡女。七人同行の傍へと辿りつくとニタリと笑みを浮かべる。


「さぁて、高梨有伽に告げましょう。こいつを殺されたくなければ、なんだっけ? おこぼれ山? そんなとこあるの? じゃあおこぼれ山に一人で来なさい」


 そう、彼女達は無理して根唯と闘う必要は無かったのだ。

 だから今回は引いた。

 なぜなら踏歌を人質に出来たから。


 くーちゃんはどうなったんだろう?

 あの二人はくーちゃんが足止めしてた筈なんだけど……

 濡女たちは一方的に宣言した後、そのままおこぼれ山へと去っていく。


「ど、どうすんだ。東華さん掴まっちまったんだけど!?」


「この分だとくーちゃんと土筆はワタシたちを探してるかもです」


「その心配はありませんわ」


 迷い家の軒下からひょこりと顔を出す土筆。

 若干ボロボロなのは戦闘が激しかったのだろう。


「大丈夫だった?」


「ええ。足止めをしていたのですが急に踵を返してどこかに行ってしまって。もしやと思いこちらのフォローに来たのですが、読み間違えましたわね」


「踏歌が掴まるなんて……また、巻き込んじゃった」


「巻き込んだのは私たちではありません。敵が、巻き込んだのです」


 くるり、しゅたっと地面に降りた土筆がアサルトライフルを片手に近づいてくる。


「とにかく、身元がバレてしまいました。この島に居続けるのも困難でしょう。フェリーの天井に密航します。島を離れますよヒルコ」


「ま、待って。それ、踏歌は?」


「有伽の命が優先です。罠に飛び込むのは愚策。私の目的は有伽様の安全確保ですわ」


 それは、それはそうだけど……でも、踏歌を……ワタシは……

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