逃走開始
「ちゃんと付いて来てる?」
「抜かりはありません」
「全く、何が起こっとるんじゃ」
って、なんでくーちゃんまで逃げてるの!?
「くーちゃんまで逃げなくてもいいんだよ!?」
「にょほほ、妾も追われておるでな。逃げるに決まってるのじゃ」
そう言えばくーちゃんもラボに追われてるんだっけ。
「で、で、なんで屋良さんが追って来るの!?」
そしてくーちゃんとは逆方向から隣に並んでくる踏歌。
いや、なんで踏歌まで走っちゃってるの!?
「止まってる暇はありません、このまま逃げます」
「分かってるけど……」
「というか梨伽さん、めっちゃ走れるじゃん」
え?
と、踏歌に言われて初めて気付いた。
ワタシ、普通に走ってる?
いや、違う。ワタシの行いたい動きを有伽の身体が同調してくれてるのだ。
有伽、まさか意識が?
いや、違う、多分だけどラボの刺客に襲われたことで自己生存の本能的な何かが身体をワタシに合わせてくれてるんだろう。
今は都合が良いのでそのままにしておこう。
「にょほ!? 前に誰かおる?」
「アレはっ!?」
「七人同行の操り人形ですわ」
言うが速いか土筆は迷わず銃口を向けて発射。
ゴム弾ではなく本物の銃弾がサラリーマン風の男を貫いた。
「ちょっ!? それ本物!? 人殺し!?」
「殺せたらどんなに良かったでしょうね、見なさい踏歌さん」
「へ? うわ、起きてる、動いてる。頭に風穴あるのに生きてるっ!?」
「にょほほ、なるほど、七人同行。七人の不死的存在が襲いかかってくる訳か」
「くーちゃんよく分かるね」
「にょほほ、当然じゃ。しかし、そうなると、あの襲って来たというクラスメイト、屋良じゃったかの、あれはもしや……」
やっぱり、屋良さんは殺されて七人同行の操り死体にされてしまったんだろうか?
「ほぼ間違いありませんわね。私の落ち度ですわ。こうならないように索敵をしてましたのに」
残念ながら彼女の索敵は失敗に終わったようだ。
七人同行の方が一枚上手だったってことらしい。
「えーっと、今の話聞いてると、その、屋良さんって……」
「聞かなかったことにした方が良いぞえ」
冷や汗流す踏歌にくーちゃんが苦々しい顔をする。
「で、どうするの」
サラリーマン風の男を蹴り飛ばした土筆に、踏歌が尋ねる。
「こうなったら逃走しながら本体を探すしかないでしょうね」
本体を倒せばあるいは、そう言うことらしい。
「ふーむ、それで七人同行の本体とやらは?」
「えっと、飛行機事故で私達を襲った時に自爆した、ような?」
「それは変じゃな。それだと七人同行は死亡したと思うのじゃが」
「つまり、アレすら本体じゃなかったってことでしょ」
なるほど、と納得する。
じゃあ本体って、何処?
「とにかく襲ってくるのが敵、逃げてればどんどん追ってくるわ、どこか広い場所で迎撃できないかしら?」
「にょほほ、海でよくないかの」
「足を取られたら終わりますわ」
「あ、だったらあっちに広い公園あるよ。無駄に広い公園で広場しかない奴」
それ、公園じゃなくて広場でよくない?
踏歌の言葉に従って彼女案内で公園に向かう。
そこは、確かに広々としていた。
閑散とした広場。
隅の方に申し訳程度に存在する滑り台。
砂場すらない広場なのに滑り台一つあるだけで公園と言い張っているらしい。
確かに、ここなら充分闘いは出来そうだ。
「前回は逃走戦だったので遅れを取りましたわ。でも、ここならゾンビの銃撃ゲームと変わりませんわよ」
いや、変わるでしょ。
が、近づいて来たサラリーマンゾンビにマシンガンを発射していく。
面白いくらいに踊りながら後ろに下がっていくサラリーマン、本当にゾンビゲームでもしてる気分だ。
直ぐに別の七人同行がやってきた。
OLと青ざめた男。さらに男の子が一人。
皆近づく前にマシンガンに晒され踊りながら進んでは下がってを繰り返し始める。
踊り狂う七人同行の亡者たち。
バケモノだ。これほどの銃弾に晒されても彼らは全く堪えることなく近づいてくる。
どれ程撃たれても全く気にしない亡者。もはや踏歌などその場に吐き散らしているほどである。
「にょほぅ、これはさすがに凄いの」
「どうにかしたいけど、土筆の邪魔も出来ないし、ここでじっとしてるしかないみたい」
「そうでもないぞえ」
ぴくんっと狐耳が動く。
「そこじゃ!」
懐から扇を取り出し投げるくーちゃん。
少し離れた場所にあった雑木林の隙間から、屋良さんが飛んで逃げた。
「や、屋良サン!?」
ちょ、そっちから来られると対応が。
「だ、大丈夫、屋良さんは任せて」
焦る土筆に応えたのは吐き終えたばかりの踏歌。
妖能力を使い、雑木林の気を樹木子へと変質させる。
根っこを伸ばして屋良美織を捕らえてしまった。




