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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 濡女
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無断欠席

 いつものようにホームルーム開始を待つ。

 しばしくーちゃんの賑やかな笑い声と梃の話声が隣で聞こえていたが、先生がやってくるとそれも聞こえなくなった。


 慌てて皆が座席に戻る。

 くーちゃんが不意に空いてる席を見付けてそこへと向かって行く。

 おいこら、あんた部外者だろ。何しれっと休みの子の席に座ろうとしている?


 あれ? そういえばあの子、今日は休み?

 この前は皆勤賞目指すみたいなこと言って無かったっけ?

 それは、ふとした疑問だった。

 けど、なぜか心がざわめく。見逃してはいけない小さな異変、なのでは?


「んじゃ出欠取るぞー」


 やってきた先生が教室内を見回す。

 そして気付いた違和感が一つ。


「んん? 屋良はどうした? もしかして変身能力のある妖に目覚めたか?」


 屋良美織の席に座ったくーちゃんを見てそんな事を告げる先生。


「いや、待て、お前誰だーっ!?」


「にょほぉ!? バレた!?」


「あははははは。くーちゃんそりゃバレるっしょ」


 ケタケタ笑ったのは美園。くーちゃんが教室に居ることに気付いてニヤニヤしていたのだが、先生が驚くのを待っていたようだ。


「き、貴様俺の生徒を何処にやった」


「いや、知らんのじゃ。席が空いとったから座っただけじゃぞ」


「……そうか、じゃ、いいや。屋良欠席、っと」


 ちょっと待てぇ!!

 今度はワタシが目を見開く番である。

 ちょっと先生、よく見て、そいつは狐娘の不審者だよっ!?


「ところで君、名前は?」


「小出葛之葉なのじゃ」


「小出、葛之葉……と、よし、出席に丸しとくぞー」


 おかしい、こいつおかしいよ。

 しかも今オナラしたぞあの先生。


「くちゃいのじゃ」


「はっはっは。オッケルイペしちまったぜ。許せ」


 生徒達が笑いながら窘めて、先生が苦笑しながら謝る。いつもの光景だ。

 何か緊張した空気でもこの先生がいるとなぜか笑いのある空間になってしまう。

 オナラ一つで皆を笑顔にするのだからこれはある意味教師としての才能の一つなのかもしれない。

 人前でオナラするなって常識を教えてやりたいけどね。


 それからは出欠確認も普通に済んで、なぜかくーちゃんは皆に受け入れられてしまった。

 明日から一つ余分に座席作るかーとか先生が首を捻りながら出て行く。

 そして再びやってくる。


「済まん授業最初はここだったわ」


 この先生本当に、もう、おっちょこちょいというか抜けてるというか、でもそんな先生ながら皆敬遠することなく受け入れて先生はしょうがないなー。と告げるだけ。

 笑顔で授業が始まった。

 ……やっぱり、いいなぁ、こういう授業風景。ずっと、ここで皆と受けて居たいなぁ。


 はぁっと窓の外に視線を向ける。

 一瞬幻覚か? と思ったが違う。思わず目を見開く。

 窓の外、そこに屋良美織がいた。


 なんで? 学校に来てるのになぜ登校してない?

 俯いた状態の屋良の姿に背筋が凍りつく。

 何か、何かヤバい、これは危険な兆候だ。


 ゆっくりと、屋良は背を向けどこかへと歩きだす。

 今、一瞬だけど目が会った。

 全身からいやな汗が噴き出た気がする。液状存在だからそんな筈は無いんだけどねワタシ。それ程の恐怖が一瞬、ワタシの全身を包みこんだのだ。


 それに、屋良さんの口元。

 わずかに動いていた。たぶん「みつけた」って言った気がする。

 気のせいだ。そう思いたかった。

 でも、でもマズい。何がマズいって?

 自分たちが今追われる身であること。そして追跡者は、七人同行。


 それは、自分が殺した相手を同行者に加えることが出来るという能力者。

 もしも、もしもだ。屋良さんがアレと出会って殺されていたら?

 ワタシの、せいか? ワタシのせいで、彼女が死んだ? 他の人たちも、殺されて行く?

 ダメだ。この人たちを殺させるのは、そもそもラボが他人を巻き込むなんて……


 いや、そうか。有伽が逃走を決意したのは、ラボが他人であった有伽のお父さんを殺したから。本来抹殺対象ではない人を殺してしまったからだ。

 奴らは必要に狩られなくとも一般人に手を出す最悪な存在だった。

 ごくり、知らず喉が鳴る。

 はやく、はやくこの事を土筆に知らせないと。


 しかし、授業中に抜けだしたところでどうなるものでもない。

 土筆は今情報収集中。合流できるのは放課後だ。

 今は、授業を受け続けるべきなんだろう。


 逃げた方がいいんじゃないか?

 誰かに話した方がいいんじゃないか?

 けど、屋良サンはこれ以降姿を現すことは無かった。


 昼休憩にワタシが元気ない、というか心ここにあらずといった姿を見せたせいで心配はされたけれど、結局最後の授業まで受けてしまった。

 逃げようかと思ったけど、このぬるま湯から抜け出すのが嫌だったんだ。

 もしも、相手が有無を言わさず襲ってくるなら逃げていた。でも、何の音沙汰もないのだ。

 屋良サンは見間違いだったのかも、そんな楽観論を信じたかったんだ、ワタシは……

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