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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 鎗毛長
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帰る場所なんて、なかった……

 途方も無く、歩いていた。

 もう、何処に行けばいいのかすら分からない。

 ただ、あそこにいるのは無理だった。

 自分の未来が突き付けられるみたいだったから。

 だから、秘密の基地からは脱出し、森の中をあてどなくさまよう。


 どうして……

 疑問は尽きない。

 なんで……

 母さんが敵になるんだろう?

 私は……

 研究所は、父さんを殺したんだよ? 普通、復讐に動くべきじゃないの?

 母さん、答えてよ。どうして、私の邪魔をするの?


「ねぇ、母さん……」


 そいつは、私が来るのを待っていた。

 私自身は何処に向かってるかも分からなかったのに、わざわざ私の進行方向で私が来るのを待っていたらしい。

 たった一人、私に似た容姿の女。

 とてつもない若作りで、見る人が見れば姉妹? と勘違いしてしまう綺麗な女。

 私のお母さん、高梨留美。


「ヒルコちゃんは良い子だったわね。最後まで、貴女の元に行かせないとあたしの足を拘束していたよ」


 そっか。ヒルコは、もう……

 私がバカだったばっかりに、母さんなんかに黴使っちゃったばっかりに……

 ごめんね、ヒルコ。


「おいおいアー坊、なによその眼。もう抗う気力もないってかー」


 溜息吐いて、母さんが舌を吐きだす。

 右手に提げていた草薙を舌に巻き付け、ゆっくりと頭上へと持ち上げる。


「そんなんじゃヒルコちゃんも浮かばれないわねー。次はヒルコちゃんも庇っちゃくれない。……死ぬわよ、あんた?」


 ッ!

 高速で振り降ろされた剣の一撃。

 咄嗟にナイフで受け止める。

 稲穂から貰ったナイフ。

 もう残ってるのはこれだけだ。

 紫鏡の能力があればいいのだけど、気のせいか?

 いや、気のせいじゃない。刀身が紫から銀色に戻っている。


 つまり、紫鏡も何かしらの理由で私への協力を止めた。あるいは止めざるを得ない状況になったと思っていいのだろう。

 また一つ、私の攻撃方法が消えてしまった。

 普通のナイフ一つで黴と草薙を手に入れた母さんと闘え?

 勝てるわけないじゃん。

 でも、逃げるっていっても何処に逃げればいい?


 必死に母さんの攻撃を受け止める。

 弾くことは出来るが、弾いた瞬間軌道を変えて襲ってくるので受け止めきった方が被害が少ない。

 さらに相手のリーチは剣、こちらのリーチはナイフ。

 この差は舌に巻き付けた攻撃同士とはいえ、かなりの有利不利に分かれる。


 それだけならあるいは、勝算はあったかもしれない。

 でも、私の士気が上がらない。

 母さんが相手という事実。

 いくつもの仲間を失った事実。

 ゆえに反撃する気力が湧かないのだ。 


 やる気が出ず、強敵を相手にすれば待っている事など決まり切っていた。

 母さんはさして面白さもない顔でナイフを弾き飛ばす。

 放物線を描き稲穂から貰ったナイフが地面に突き刺さった。


 終わった……

 もう、私には、何も……ない。

 ヒルコが消えて、ナイフまで失って……膝を付く私に、近づいてきた母さんは草薙ぎを突きつける。


「もう終わり? あー坊?」


 死ぬんだ……私。母さんに殺されるんだ……

自分でも不思議なくらい、涙がでた。

悔しいとか、悲しいとかそんな感情はない。


ただ、自分が生まれてきた意味が、否定されたような……

 ああ、そうか。私、生まれてきちゃいけなかったんだ……って、生みの親に否定された気がして、それが虚しくて。

 ただただ茫洋とした顔で母さんを見上げる。


 ねぇ、母さん。私、母さんの娘に生まれちゃ……ダメだったの?


「はぁ……飽きた」


 そんな私を見て、母さんは頭を掻きながら背を向ける。

 剣を右手に戻し、肩にひっさげ歩き出す。

 呆然と見つめる私に、一度だけ立ち止まり、彼女は顔を向けた。

 とても悲しそうに、一言だけ、呟く。


「じゃあねあー坊。さよなら……」


 母さんは、一度も振り返ることなく去って行く。

 身包み全て剥がされた気分だ。

いや、実際に剥がされた。


草薙ぎも、黴も、ヒルコまで……

 隠れ家も無くて、最後のナイフも失って。

 それでも、それでもね母さん。


 たった一つだけ。

 一つだけ、まだあったんだ。

 貴女だけは、どれ程仕事だって言っても、私にとっては……

 だけど、私の想い違いだったみたい。


私の最後の居場所が……

 それも、実の母親に。

 家族という居場所が今……なくなった。


 別れを告げて立ち去る母さん。

 その後ろ姿で、理解した。

 私は、捨てられたのだ。

 母さんにはもう、必要無いと、家族ではないのだと。

 だから、見捨てられた。殺されなかったのは最後の良心? それとも、殺す程の価値も無い存在だった?


 母さん、私、それでも、それでもね、家族のこと……好きだったんだよ?

 ずっと、ずっとお父さんとお母さんと、一緒に……

 もう、二度と戻れないんだね。母さんは。もう振り切れたんだね。

 私を捨てて、先に、行くんだね……


後に残ったのは、寂寥感だけだった……

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