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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 ケンムン
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終わり、始まり

 燃えていた。

 大切な仲間が手を差し伸べて、直後、燃えた。

 彼女が居た家屋が、無情にも、無残にも、火球を受けて燃えていた……


「あぁ……」


「はは、あはははははっ! やった。土筆を、ようやくッ! ありがとよぉ、高梨有伽ァ!」


 女狐の高笑いが聞こえる。

 燃える家をただただ見つめる。

 何が起こった? なんで、こうなった?


 ……嘘だ。

 嘘だ。

 嘘……


「おいおいアー坊、他所見してる暇、あるのかにゃ~」


 っ!?

 風圧が空を斬った。

 声が掛からなかったらヤバかった。

 私の首が草薙に落とされてるところだ。


 飛び退き相手を見れば、母の顔。

 思わず全身が硬直する。

 ダメだ。私は……母さんが目の前にいるだけで闘う気力が消し飛ばされる。


 母さんとは、やっぱり闘えない。

 しかも玉藻も健在。

 土筆は……クソ、ここは本気で逃げなきゃ……


「逃走なんざ許すわけねーだろッ!」


 あの野郎、さっきまで死にかけてたくせにっ。

 私が、私が母さん目の前にして戦意無くしたせいだ。

 ごめん土筆。私のことずっと助けてくれたのに……

 しっかりしろ高梨有伽。このままじゃ犬死にだ。


 敵だ。

 目の前に居るのは、敵だ。

 母さんの顔をした。敵だッ!


「有伽、母さん相手に……大丈夫? 無理だったら本当に逃げた方が……」


「いい、大丈夫。覚悟しないと、だよね」


 頬を叩く。

 殺さなきゃ。

 敵は、皆殺さなきゃ。これ以上土筆みたいに被害者が出ないように。

 母さんだったとしても……殺さなきゃッ。


 稲穂から貰ったナイフで右腕を斬る。

 覚悟を決めろ。

 そうだ。殺すつもりになれば一瞬なんだッ。


「黴、目の前の敵を……殺せェッ!!」


「っ!? 有伽、ダメッ」


「うげっ!?」


「あら……」


 慌てて逃げだす玉藻。

 けど、母さんは逃げる気配すらしない。

 むしろ……なん、で? そんな可哀想なモノを見る眼を、してる?


 私の腕から飛び出す黒い暴虐。

 一直線に飛び出して、母さんの元へと向かう。

 ……そっか、これ、母さんを殺してしまったら、私、両親を失うんだ……


 私の知り合い、どんどん居なくなる。

 母さん……どうして? どうして、敵に回ったの?

 私は、母さんと敵対なんて……


「バカな子……」


「っ!? 母さん?」


「黴がなんであんたの元に居たのか、忘れたの?」


 黴が母さんの元へ到達する。

 私の身体から飛び出す全ての黴が、母さんへと殺到する。

 殺到し、全身を覆い尽くし、そして……


 そして……何事も無く彼女は歩きだす。

 黴を全身に纏わせて。

 哀しそうな顔をして、間抜けな顔で驚く私に近づいてくる。


「黴はね。垢嘗めだからあんたの身体に住みついた。つまりさぁ、私も垢嘗めだから、死なないんだよね?」


 ……あ。

 失敗、した?

 失敗したっ!?


 母さんに黴は使っては行けなかった。

 気付いたモノの後の祭りだ。

 既に飛び出た黴達は……もう、戻らない。


 殺される可能性の高い宿を無理に選ぶより、圧倒的強者の宿が目の前に居るのだから。

 母さんの体内へと消えていく黴の群れ。

 母さんが喰い殺される未来は無くなった。でも、でも……

 今まで私を助けてくれていた黴が、全て……逃げ去った。


 居なくなる時は一瞬……黒い血液は消え去り、久しく見なかった赤い色が手首から滴る。

 私に味方するよりも母さんに味方した方がいい、とでも思ったらしい。

 薄情、いや、誰だって沈む泥船には乗りたくもないだろう。つまり、黴は私を見限ったのだ。


「さぁ、どうするの有伽?」


「う……」


「有伽、うずくまってる暇ないよっ。急いで留美さんから距離取ってッ!」


 分かってる。分かってるよヒルコ。でも。でも動かない。私の身体が、動いてくれない。

 もう勝てるって。思った所から一気に状況が流れて、思考と身体がちぐはぐになってしまってる。逃げたいと思っても、逃げれない……っ。

 母さんの口から舌が吐きだされる。

 先端が絡まるは草薙の剣。

 ゆっくりと、死神の鎌のように振り上げられる。


「有伽っ、有伽っ」


 ごめんヒルコ、私、動けない。

 すぐ横で土筆も家ごと燃えてて、黴が私から居なくなって、私……私……


「……仕方ない」


 振り下ろされる剣。逃げ場のない私。ヒルコも小さく呟き覚悟を決めたらしい。

 ごめん、ヒルコ。

 剣閃がきらめき私の首に……


「させないッ」


 ヒルコが動き、稲穂のナイフで草薙を受け止める。

 紫鏡は発動させてないようだ。

 舌の一撃をはじき返したヒルコが強制的に私を操る。


「有伽、逃げるよ。自分の足を動かしてッ」


 必死に私を逃そうとするヒルコ。

 私の身体を操作し、母さんの剣撃を弾き、玉藻の炎弾を紫鏡の能力で消し飛ばす。

 動かなきゃ。ヒルコが頑張ってくれてる。

 黴を失ったくらいで絶望するな、私、しっかり、しっかりっ。


「取ったッ」


 ヒルコの一撃が母さんの舌を切り裂く。

 刹那、黒い飛沫が飛び散った。

 血飛沫とは違うソレを、至近距離に居たヒルコは逃げることすら出来ずに浴びる。

 母さんの身体に共生していた……黴を。

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