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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 ケンムン
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逆転

 歯車が回りだした。

 運命という名の歯車が。反逆という名の歯車が。

 順調に回っていた筈だった。

 そこに、異物が挟まるまでは……


 異物が歯車を止める。

 歯車はそれでも回ろうとする。

 軋み、歪み、ひび割れ、そして……


「……え?」


 草薙の剣を振り下ろした私は、一向に来ない人を突き刺す感触に疑問符を浮かべた。

 気付けば、両手に持っていた筈の剣が消えていた。

 玉藻に致命傷を与える筈の剣が、消えていた。


「なん……」


 驚くのは私だけじゃなかった。

 殺されかけていた玉藻も何が起こったのか理解できずに眼を見開いて固まっている。

 ゆえに、剣を消失させたのは彼女じゃない。


「あ、有伽、あれ……」


 耳元でヒルコが囁く。

 震える声に反応し、私はばっと顔をあげた。


 日差しを受け、黒い人影がそこに居た。


 私達を見降ろすように、民家の屋根に片膝付いて。


 長い、とても長い舌を口から出して。


 その長い舌に巻き取った草薙の剣を天へとかざし。


 見知った女が見降ろしていた。


 居る筈の無い人物。


 ここに居てはならない人物。


 何故?


 何故?


 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故――――……


 何故……母さん、が?


「やぁ、アー坊。私もまーぜてっ」


 舌から草薙の剣を右手に移動させたその女は、屋根から飛び降り、舌を巧みに使って地面へと降り立つ。


「母……さん?」


 地面に着地したその女。高梨留美はゆっくりと立ち上がる。

 手には草薙。態度は不敵。


「なんで、居るの……?」


 ただ居るだけならよかった。

 けれど、なぜ? なぜあなたは、私から草薙を奪っているの?


「アー坊、いや、初めまして高梨有伽(・・・・・・・・・)。私は高梨留美。危険な妖を抹消する暗殺班第4班室長です」


 いつもの人を喰ったような陽気な声は鳴りを潜めた。

 それは確かに、初めて出会う敵への態度。

 冷徹に冷酷に、ただ仕事を行うためにやってきた執行人。


「抹殺対象高梨有伽を……殺しに来たわ」


 ……嘘だ。


「有伽っ、しっかりしてっ!」


 嘘だ……

 なんで、母さんが?

 暗殺班? 敵?

 なんで? そんなはず……だって、だって母さん、あいつらは、暗殺班はっ。


「暗殺班は……父さんを……」


「ん。知ってる。だから、なに? 家庭は家庭。仕事は仕事。さぁ、殺し合いましょう?」


 自然、身体は一歩退いた。

 母さんが近づくたびに身体が退がる。


「嘘、偽物だよ。だって……」


「有伽、落ち付いてっ、アレは……あの人は、本物だよ。ワタシも会ってるから分かる」


 何が、何が分かるのよヒルコッ!?

 だって、母さんだよっ!?

 なんでラボの暗殺班なのっ!? どうして父さんを殺した奴らの中に母さんがっ!?


「……逃げよう。とにかく体勢を立て直そうっ。有伽、逃げるよっ」


 身体が自動で動き出す。

 ヒルコが慌てて動かしているんだ。

 待って。まだアレが本物だって分からないっ。

 ああ、でも……

 ダメだ。私……私、母さんとなんて、闘えない。


 逃げる?

 逃げる。

 逃げるッ。

 逃げようッ。今はただ、母さんの姿をしたあいつか……ぁ。


 逃げだそうとした私の足に何かが絡みつく。

 ああ……

 ダメだ。

 私の身体が浮き上がる。

 私の足に巻き付いた舌を認識するより早く、私の身体は母さんに捕獲され、空高く舞い上がる。


「そぉれ、直ぐに死んだりしないでよっと」


 急激に視界がぶれる。

 気付いた時には全身を地面に強打していた。

 視界が揺れる。

 衝撃自体はヒルコが助けてくれたから問題はない。でもまだ足を拘束されたままだ。


「有伽、闘わないとっ」


 無理。無理だよ。

 なんで母さんと闘うなんてことになるのっ!?

 おかしいでしょ。

 ああ、そうか、操られてるんだ。

 きっと、母さんは奴らに操られてっ。


「有伽ッ!」


 ヒルコの叫びにはっと我に返る。

 再び空高く引き上げられていた。

 咄嗟に舌を伸ばして電信柱に捕まる。

 一瞬遅れて足を引っ張られる。

 紫鏡のナイフでヒルコが応戦。

 斬られる寸前に舌を引っ込める母さん。


「おっと危ない」


「有伽、一先ず逃げよう。体勢を立て直そう。落ち付けばなんとか……」


「そ、そうね。でも、簡単には逃してくれそうに……」


「有伽様ッ!」


 不意に、背後から声が聞こえた。

 振り返れば、そこには一軒家。二階の天井から顔を出した土筆がこちらに手を伸ばしていた。

 そうだ。天井に逃げればしばらく自由時間が出来る。

 今は気持を落ち付け……


 ゴゥッ 

 と、それは一瞬にして燃え上がった。

 目の前で、土筆の居た家が炎に包まれる。

 女狐の嘲笑が、響き渡る。


 運命の歯車が……音を立てて壊れた。

ここからバッドエンド?向けて一気に加速していきます。

第二章終了までの道筋ができたので毎日更新再開です。

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[気になる点] 終始気になってたバッドエンド?まで後少しか〜…最後まで楽しませていただきます!
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