殺害対象目競
私とヒルコはケンムンたちのいる場所へとやってきた。
一応事前に場所自体は土筆に聞いていたので、その周辺を探せば直ぐに見付かった。
向こうも私達を警戒してゆっくりと移動していたようだ。
目競が居るからこちらの動きは筒抜けの可能性もあると見ていいだろう。
一応スニーキングミッションとして見付からないように潜んではいるんだけど、周囲を探る二人の男から逃れる術がない気がする。
ただ、あの二体と敵対するに関して、ケンムンはともかく目競に闘う術ってあるんだろうか?
試してみるか。
ヒルコ、作戦会議だ。
あいつらなんか私達のことまだ見付けてないっぽいんだよね。
つまり感覚器だよりの捜索を行ってないってことだ。
まぁこの島には無数に妖使いがいるからどれが私か分からないって可能性もある。
学校や職場には複数の妖使いが集うからね、私と間違えミスリードされる可能性を考慮して感覚器での捜索は切ってるんだろう。
追跡能力ならべとべとさんがいるし、目競もいる。ゆえに感覚器便りの捜査は行っていないようだ。御蔭でこちらは直ぐに居場所を見付けられたけどね。
さぁて、それじゃあ御挨拶と行きましょうか。
この辺りからでいいかな。
時間的にも頃合いだ。行くぞ。
舌を振り被り、巻き取っていた石を投げる。
狙いは目競。
その側頭部を打ち抜くつもりでぶん投げた。
「っ!?」
即座に反応したのはケンムン。
右手を引っ込め左手伸ばし、飛んで来た石を受け止める。
話に聞いていたけどエグイな。右手が赤ちゃんくらいまで引っ込んだぞ!? アンバランス過ぎて気持ち悪い。
「ほぅ、貴様から来たか!」
「そりゃあ折角来て貰ったんだから、おもてなししないと。べとべとさんと足の速い子には挨拶したからさ、次はお二人さん」
「成る程。良かろう!」
ケンムンが率先するように動き出す。
視線で目競に何かを合図し、現れた私へと走って来る。
と言っても私は小高い民家の上、ここに来るためには長距離移動しなければならない。
つまり、目競が無防備になる。
そぉらよ!
私は一人残された目競向かい、ソレを石と同じ要領で投げつける。
袋に入った液体。
驚く目競、伸びるケンムンの腕、うっわ、マジか!?
届かないだろう、と思ったケンムンは、物凄い長さに片腕を伸ばして自分の腕で受け止める。
ただ、袋が衝撃に負けて破れ、中身の液体が目競近くに飛び散った。
「うわっ!? なんだ?」
「何の液体だ? 硫酸か何かかと思ったが、腕に問題は無しか? ただの水袋?」
腕を戻したケンムンが民家の軒下へと迫る。
もう、民家を昇れば私の居場所だ。
もともとこいつは一騎打ちで倒すしかないと思っていたので問題はない。
ヒルコが居れば防御面も問題ないが、今は気を付けないと。
え? ヒルコ居ないのかって? そりゃぁ、ついさっき、投げつけたからね。
ケンムンが絶対的に阻止できない位置まで来た事を確認し、ヒルコが動き出す。
渡しておいた紫鏡のナイフを取り出し、目競の背後に湧き上がる。
「? ッ!? 逃げろ目競!!」
「へ? あ?」
びくりと驚く目競。慌てて逃げようとしたその喉元に、ナイフが食い込んだ。
「あ、あれ? なんで……?」
「ごめんネ、ワタシたちのために、死んで?」
血飛沫が飛んだ。
クソッとケンムンが舌打ちする。
「粘体生物、死んだと報告されていたヒルコか!」
「御名答。これで残るは半数ね」
「私で終わりだ。貴様等が死ね!」
腕が伸び、屋根を掴む。
一気に飛び上がってきたケンムンが私に対峙した。
おぉっと、こりゃ強敵だわ。
初めて隊長と対峙した時の絶望感が膨れて来やがる。
でも、落ち付け。今の私ならやれる。
落ち着いて闘えば負けはない。
相手のスキルは河童と似てる。河童の上位種とでも思えば問題ない。
弱点の皿はないと思え。
キュウリでつられることもあるまい。
けれど弱点が無ければ欠点を作ればいい。
「簡単に殺せると思うなっ」
「こっちもね」
ナイフを構え、一瞬で伸ばした腕で切り付ける。
私はそれを舌に携えた草薙で弾く。
一撃一撃が弾丸のように重く鋭く容赦ない。
素早い引き返しと一瞬で伸びて来る攻撃に、草薙も防戦一方だ。
思わず舌打ちしたい気分になる。
そうこうしているうちに九尾が来るんじゃないか?
一気に不利になるんじゃないか?
不安が鎌首をもたげる。
でも、落ち付け。
それは敵も同じこと。
目競を殺したヒルコが近くに居るとわかっているのだ。
ケンムンの方が気が気でないはずだ。
焦っているのは向こうも同じ。
ならば焦りを顔に出すな。
勝つのは私だ。
焦らず落ち付け。こいつを、ここで殺すためにっ!