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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 目競
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天井下り VS 九尾の狐2

 前川玉藻はイラついていた。

 ここに着いてから、いや、天原土筆が裏切ってからイラつくことしか起こっていない気がする。

 ゆえにヒステリックになっているのが自分でも分かった。

 落ち着こうと思っても脳裏に浮かぶのは土筆の顔。


 不敵な顔でこちらを挑発するあの顔を見ると、折角収まったイラつきが再燃する。

 ゆえに常時不機嫌だった、

 しかも今は自分の失態と土筆のせいで大切な部下を一人失ったところである。


「あは、来ちゃった」


 ビキリ。

 全身の血管が軋む気がした。

 怒りで血液が沸騰する。

 視線が合った。目の前が真っ赤に染まりそうな怒りが噴き上がる。


「つぅくぅしぃぃぃぃッ!!」


「はぁい玉藻。仲間見殺しにした気分はどぉお?」


「殺してやる!」


 火炎弾を打ち込めば、軒下から顔を出していた土筆が即座に引っ込む。

 民家が一つ焼け、別の民家に土筆が出現。

 もはや土筆を始末するよりここいら一帯が火の海になる方が早そうだった。


 今回は気分が楽だ。

 有伽が目競とケンムンをヒルコと共に倒すまでの間、このバケモノ狐を自分が引きつけておくだけ。

 倒せるなら倒していいが、基本戦術は安全第一。

 相手を怒らせ正常な判断を奪いつつ、相手の攻撃を避けて行く。

 下手に理性を残せばランダムに適当に攻撃を放ち、モグラ叩きの要領で天井から顔を出した瞬間流れ弾に当たって死亡、というリスクができる。


 ゆえに挑発する。

 挑発すれば相手は目の前に居る土筆を殺そうと必死になるせいで、天井を渡った先に攻撃される危険が極力減ることになる。

 玉藻の視野が狭くなれば、防御こそ破れずとも致命的な一撃を喰らうことはまずなくなる。


 たまに銃弾を放って相手に危機意識を植え付け、挑発して怒りを持続させる。

 怒りというのはだいたい6秒持続するそうなので、一度挑発したら移動して直ぐに挑発。相手に考える暇を与えないことで怒りが収まり冷静に思考されることを防ぐ。


 正直言えば常に綱渡りだ。

 冷静な対処が成されてしまえばとたんに自分は不利になる。

 挑発し過ぎれば辺り一帯消し炭にされて逃げ場がなくなる。

 ヤリ過ぎず、適当に怒らせ、順当に自分だけに攻撃するように導いて行く。


 玉藻を昔からずっと見ていた土筆だからこそできる闘いだ。

 これが別の敵だったり、玉藻と面識がなかったりすれば、とたんに成り立たなくなる作戦なのだ。

 綱渡りすら出来なくなれば有伽共々詰むのは自分たちだろう。

 一つのイレギュラーもあってはならない。


 ここに玉藻以外の敵が来ても成り立たない。

 玉藻だけを有伽と集中攻撃することもダメだ。まだ敵の増援が来かねない状況での挟撃では相手に増援があった時点でこちらの敗色が濃厚になる。

 玉藻はそれほど面倒な相手だ。

 仲間の足を引っ張ってくれれば申し分ないのだが、この女狐、他人が居ると怒りながらも冷静な指示を出し始めてしまう。

 腐っても指揮官。部下の前では冷静さを失わないのだ。


 だからこそ、今は自分が命がけでタゲ取りを行う。

 玉藻の意識が自分だけに向いていれば、その間有伽が自由に動けるのだ。

 有伽一人だけだと万一も考えられるが、ヒルコが付いているなら滅多なことではダメージすらないだろう。

 ケンムンといえども生半可な攻撃では有伽を殺せないはずだ。


 そういう無数の条件から土筆は必死に玉藻を自分に夢中にさせる。

 これを行っていれば有伽が全てかたずけてくれると信頼しているのだ。

 だから、例え有伽が負けることがあったとしても、彼女は気付くことはなくひたすら信じて玉藻と闘い続けるだろう。


「そこ、だぁッ!」


 天井に逃げるタイミングが遅れ、髪がいくらか燃え散った。

 必死に気を張っていてすらこういうことがある。

 ゆえに一度立ち向かうと決めれば気を抜くことは出来ない。

 気を抜いた瞬間、玉藻の一撃は確実に土筆を射抜くからだ。


 それに加えてどれだけ挑発しても玉藻は防御だけは手を抜かない。おろそかにしない。

 怒りに我を忘れて防御が甘くなればしめたものなのだが、そう甘くはいかないらしい。

 どれ程銃で狙っても、尻尾に叩かれ、結界に阻まれ、ギリギリで避けられる。


 本当に嫌な相手だ。

 こちらが相手の性格を熟知しているように、向こうもこちらの手の打ちを熟知している。

 ゆえにどれほど怒っても、致命的な隙だけは見せてくれない。

 

 後はもう有伽が全てを終わらせこちらに合流するまでこの綱渡りを続けるだけである。

 けっして付かず離れず。相手の興味が失われないよう適度に挑発し、適度に狙撃する。

 これだけを繰り返す。


「有伽、出来るだけ早くきてよね……あんたに賭けたんだから、死なないでよ」


 マガジンを換装し、再び銃撃を加える。逃走からこっち、狙撃銃のマガジンはかなり心細くなっていた。補充が出来ない彼女にとって、弾切れだけは絶対に気を付けなければならないものだ。

 残弾にも気を付けながら、玉藻の意識を必死に集める土筆であった。

 


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