いい画が取れたから
「黒煙?」
黒い煙が上がるったのは、副室長と目競にも見えた。
丁度森を抜けて市街地に差し掛かったところで見付けた黒い煙。
自分たちがあげた狼煙であれば味方に死者が出たというサインになるのだが、これは果たして味方によるものか、それとも敵による撹乱?
「さて、どちらかな」
「仲間の場合は誰かが死んだってことになるっすね。その場合誰っすか?」
「そうだな。まず一人きりの垢嘗は死んでも他の誰かが狼煙を上げることはない」
「ってこたぁ室長たちか。室長と黒眚のどっちかっすか」
「順当に行けば室長が死んだとは考えにくい。おおかた天原土筆を追って室長が居なくなった所を単独撃破されたのだろう。死ぬとしたら黒眚だな」
「死ぬとしたら?」
「敵の陽動である可能性だ。あるいは、何かの合図かもしれん」
その場合は近づくべきではない狼煙だろう。
下手に近づいて罠だった場合こちらの二人が撃破されてしまう。
そうなる位なら今回はくまなく探した後で合流地点に向かった方が良いだろう。
詳細はそちらで知ればいい。
「苦戦、してるかもしれませんが?」
「見てみればいい」
「そりゃそうだった」
目競が能力を発動する。
「あー、誰もいねぇっすわ」
どうやら狼煙の周囲を見てみたようだ。
残念ながら誰も居なかった。
「既に誰も居ないっすね」
「そうか。ちなみに室長は?」
「えーっと、お、居た。滅茶苦茶地団太踏んでるっす」
「黒眚は?」
「近くにはいねぇっすね。他の場所に……俺が見える範囲にゃいねぇっす」
「……そうか」
「ちなみにあのロリババァは……うわぁ、ホスト相手に豪遊してやがる。っつか昼でもやってんのかよ、そういう店。あ、ちげぇ、ホストっぽい男だけど居るのはファミレスだ。何やってんだアイツ? 食い過ぎだろ」
げんなりとした顔で能力を解く目競。
「どうやら死人は確定みたいっすね」
「向こうで一人、か。次は室長よりもこちらだろうな」
「はぁ、狩られるのは向こうじゃなくてこっちってか。冗談じゃないっすわ」
「あら、冗談ではありませんわよ?」
びくっと、目競が驚く。怯えながら背後を見ようとするが、それより早く副室長が動いた。
びゅばっと目競の頬を掠めて長い何かが目競の背後に居た女に向けて飛んで行く。
女へと向かっていったのは副室長の腕だった。
ただの腕だがその長さはあまりに長い。数メートル伸びた腕をギリギリかわした女が苦笑する。
「うわっと。危ないですわよケンムンさん」
「天原。やはり来たか」
「ええ、といっても今回はこれの差し入れに来ただけですわ、元副室長。良いのが撮れましたの」
「ん? 写真か?」
「って。副室長、何普通に貰ってんですか!?」
目競の告げた通り、副室長ケンムンは伸ばされた手に乗せられた写真を持って腕を戻し、何が写っているかを見る。
物凄く悔しげな顔をした玉藻が写っていた。
ケンムンはそれを見た瞬間思わず噴き出し笑いだす。
敵の目の前で行われる爆笑に、目競が土筆とケンムンを見比べ焦りを浮かべている。
しかし、ケンムンも土筆も彼の心配など無意味だとでも言うように、片方は笑い、片方は自信ありげにふふんっと胸を張ってる。
「いや、想定以上に素晴らしい写真だった」
「ですわよね。前川元室長は大激怒状態だから扱い気を付けてね。では」
やることは終えたとでも言うように、近くにある軒下から天井裏へと消えていく土筆。
呆気にとられた目競を放置して、ケンムンは軽く手を振って見送った。
「副室長ーっ」
「今回は見せびらかすためだけに来たらしいな。あとで本人に見せてやろう」
「い、いいんっすか、放置して」
「奴らに余裕があるからこれを渡して来たんだろう。それと、位置は既に把握している。というメッセージだな。ここで帰れば見逃すが、次は殺す。そう言ったメッセージだ。同郷のよしみで忠告をくれたらしい。室長に付き従う必要はないぞ、とな」
「は、はは。随分強気っすね」
「強気だろうさ。相手は我々の能力全てを知っているのだから。我々は高梨有伽の資料は知っているが本人の実力を目にした訳ではない。書類の中にない数値は戦局を変えかねん」
「うぐっ、ど、どうすれば……」
「どうもしない。我々の任務は二人の殺害だ」
確かに、と目競は納得する。
つまり、殺しに来たのだから命を狙われるのは、彼らにとっては普通のことである。
「あれ? んじゃ変に恐がる必要無い?」
「当たり前だ。室長と合流するぞ、あまり合流したくはないがな」
「了解」
別れて探索するのはあまり意味が無いとわかり、合流することに決めたケンムン。
今回の敵の厄介さを改めて理解した彼は、一度何もない家の天井を見上げた後、決意したように歩きだす。
目競はケンムンが動き出したので慌てて後を追う。
ちょこちょこ動く姿が少しうっとおしく思えるケンムンだったが、目競は何かと便利な能力を持っているので黙って後ろを歩かせることにしたのであった。