各個撃破作戦
黒眚と目競、玉藻と副室長、垢嘗の三チームに分かれるつもりだったのだが、直前で副室長が気付いた。
黒眚と目競だと敵対したときに即殺されかねない。
二人だけに任せるのは完全に失策だ。
「仕方ない。男女で分けよう」
「それはいいけどあちしは?」
「仕方ない男女で分けよう、黒眚は室長と、俺は目競とだ」
「わちしは?」
「諦めなよ垢嘗ー。あんたは一人だってさー」
「垢嘗差別ではなかろうかっ! ひどーすっ」
「お前の実力は聞いている。一人で問題無いだろう」
問題大ありーっと叫ぶ留美を放置して、暗殺班一班メンバーが去っていく。
残された留美は散々罵声を浴びせたあと、ホストクラブ探して閑散とした街を歩きだすのであった。
男性チームは森側を探索して東周りに。女性チームは南に向かって西周りに捜索することにして散開する。
男性チームである副室長と目競は、暗い夜の中、森の中を探索する。
夜目は利かないが目競ならば離れた場所も見られるため、森の探索では重宝する人材であった。
副室長と二人だけのためか、目競も少し砕けた様子で話を始める。
暗い森を探索し、たまに揺れる叢にビクッと驚き思わず笑う。
「いやー、しっかし、こういう所はやっぱり熟女なお姉様と御一緒したかったっすわ」
「そう怯えるな。どうせ敵は屋根のある場所を拠点にしている。このような森でゲリラ戦を仕掛けてくることはあるまい」
「え? でも、銃持ってるし、そっちの方が俺ら殺せません?」
「逆だな。天原土筆は元暗殺班1班。つまり俺達側の人間だ。つまり、俺達の行動パターンを良く知っている。ゆえに対策を立てやすい。ならばこそ、こういった普通なら襲撃に適した場所にこそ絶対に出て来ない」
「あぁ……そういうことっすか」
はぁと溜息を吐く目競。
そもそも暗殺班は追跡して追い殺す事を目的にしているため、森など視界の利きにくい場所ほど訓練を良くしている。
ゆえにここでゲリラ戦を行えば逆に感知されて追い詰められることになる。
それを土筆は知っている。
ゆえに遠く離れた場所から撃ち殺せない障害物の多い森で襲撃されることはまずない。
もしも高梨有伽がソレを勧めても絶対に阻止するだろう。それも有伽の安全のために、である。
「どちらかと言えば危険なのは女性チームだな。市街地戦の方が危険が高い」
「なるほど。っつかあの四班班長大丈夫っすかね。一人っしょ?」
「アレはむしろ一番安全だ。何しろ母親らしいからな。ここをうろついてるのを知っても高梨有伽からなぜここに母が居るのかと尋ねて来るだけだろう。ならば一人きりにさせておいた方が良い。どうせ、奴ならそこいらの男を誘ってホテルにでも向かっているだろうが……」
「あー、ありそうっすね。アレは完全に好色の変態ですし」
「……さて、それはどうだろうか。ともかく、そろそろ森が途切れる。東側に向かうがそこから先は市街地だ。俺達が襲撃を受けるならそこだろう。森から出る辺りから警戒を頼むぞ?」
「了解っすわ。俺が見付けてケンさんが倒す。いつも通りっすね」
「ふん」
副室長がどうでもいいと鼻を鳴らす。
男達はゆっくりと、夜の森の探検を楽しむのであった。
そして、その頃女性二人は……
「土筆ぃぃぃっ!!」
「わーっタンマ、待って、室長っ!」
市街地に入った瞬間土筆がモグラたたきの要領でそこかしこから出現して挑発を繰り返し、玉藻が見事に引っ掛かっていた。
土筆を捕まえるために走りだす玉藻。
「ちょ、民家ですよ民家! 壊したらシャレになりませんからっ!!」
全力で駆けて行く玉藻を慌てて追う黒眚。
しかし既にかなりの差が付いているうえに、頭に血が昇ってしまった玉藻は黒眚の都合などそっちのけで誘導されて行く。
このままではまずい。そう思っても黒眚にはどうすることもできなかった。
「っ!」
玉藻の姿が見えなくなった瞬間、どこからともなく飛びかかって来る影。
どこかの天井から来たのだろう。
急に妖反応に無数の反応が灯ったのだ。
躱せたのは奇跡に近い。
ぎりぎりで飛び退き真上からの斬撃を回避する。
即座に態勢を整え相手を見れば、高梨有伽がそこに居た。
「うっそ、本命がこっち来ちゃったし」
「こいつも女。悪いけどべとべとさんの次はあんたを襲う。こちら側に来て貰うわ」
「へ、変態だっ!?」
「う、うるさいっ! 私だっていやいややってんのよ! こうでもしないと同士打ちで数減らせないでしょ!」
「寄るなっ! 変態が移るっ」
「移してやるわよ! 覚悟しなさいっ」
半ばやけっぱちに動き出す有伽。
近づくやいなや、草薙を振り被る。
相手が避けると分かっているからこその攻撃。
黒眚が避けたその瞬間、有伽の舌が伸びて彼女の足を狙う
そして……黒眚の姿が掻き消えた。