妖怪と妖使い
「妖って、いたのね……」
「にょほほ、当然じゃ。江戸後期辺りまでは妖怪も様々な場所におったぞ」
「でも、最近は居ないですよね、くーちゃんに会ったのが初めてだよワタシ」
もしも妖が本当に存在するのなら、他にも出会ったみたいな事象があってもおかしくない。しかし、世の中で妖に出会ったなんてことは噂程度にしか聞いた事が無い。
「にょほほ、そりゃそうじゃろ。妾以外の妖怪なんぞどこぞの陰陽師に討伐されたか森の奥深くにひっそりしとるか、人間に紛れて普通に生活して居るかしかないからの」
「まぁ、人に紛れて生活しているの!?」
「うむ。そりゃ……というかなれのクラスメイトにもおるだろ、え? 気付いてなかったとか?」
それは初耳だ。私達のクラスに妖怪がいたのか。
衝撃の事実を教えられたワタシはしばし目をぱちくりする。
そうか、落ち着いたら探してみるのも面白いかもだけど、追われている身である今の状況で探す必要性もないね。
「で、のぅ、妖とバレると妖研究所の研究員がやって来て捕獲しよるんじゃ。都会で暮らしておったら捕獲されかけての、仕方無くここの神社に身を隠しておった、というわけよ」
って、それはつまり、妖研究所に追われてるってこと?
「あら、つまりラボとは敵対関係なのかしら?」
「敵対といえば敵対かのぅ。あいつらに目を付けられたら何処までも追い掛けて来るからの」
「あら、なのに今は追われていないではないですか」
「そうでもないぞ、既にこの島に数匹息のかかったのが来とるし、そちらの娘の傍にも枝に擬態した工作員が居ったしの」
「え?」
「ああ、尾取枝は放置でいいですわ。アレは第二部隊の監視員なので、どうせどれだけ迎撃してもしつこく追って来ますから放置してますわ」
ちょ、それいいの? 完全に居場所ばれてるんじゃないっ。
「いいのいいの、第二部隊は第一部隊が壊滅しないと出て来ないから。まず来るとすれば【七人同行】ね。あいつは絶対に島の中に潜んでる。そいつで仕留め切れなければ別の刺客が襲ってくる。だから、この妖娘は刺客と判断しなくていいのよね」
刺客とは思えないが万一があるので尋問じみた質問をいくつか行ったのだ。
くーちゃんが全裸を雄也に見られた後、いろいろと聞いてみて分かったのだが、彼女は妖怪、妖狐の一種で五尾の狐なのだそうだ。
ここ数十年は秋葉原を拠点にしていたらしいのだが、妖であるとバレたことで本土から逃げて来たらしい、追手の目を掻い潜る為に神社で寝泊まりをしていたのだとか。
「人間程度ならいくらでも逃げれるのじゃがな、妖使いどもはちょっとやっかいでな」
変な能力持ってたりするし、組み合わせ次第でさらに凶悪な効果を作ったりするしね。
【箱の中の男】とか【レンジの中のカエル】とか似たような能力者が集まったらまさに脅威。
箱の中を温める能力と箱に閉じ込める能力が合わさるとほぼ確実い相手を殺せる最高の組み合わせになるのだ。
妖であるくーちゃんでもさすがに連携されると辛いらしい。
さらに話を聞いていると、どうやら彼女とは協力関係を築けそうだと分かる。
お互いラボに掴まるとマズい関係なのだ、敵対する必要は無いし、ここなら安全地帯といっていいだろう。
「うむ、【迷い家】なら隠れ家にはうってつけじゃな。妾としてもここに厄介になることに不満は無いぞ。むしろよい、実に良い。特にいつでも欲しい時に食事が用意されているのがとても良い」
そこは同意する。
食事が用意されてるのは本当に便利だ。
雄也様々である。こいつは本当に便利な能力持ちなのだ。
問題はその思考回路。天然過ぎるので安全面が壊滅的にダメだ。
下手すりゃ敵を律義に内部に連れ込みながら知らずに食事をふるまうくらいやりかねないヤバい奴である。
当然、この島で育った根唯も似たような性格なので、この家の中でも安全だとは言い切れない。
「うむ、決めたぞ、折角じゃし妾ここに住む」
そしてぐーたらな居候がまた一人増えた。
「私達が不許可等と言える立場ではありませんが、図々し過ぎません?」
「なんじゃなんじゃー、妾結構有用じゃぞー。にょほほ、昔のクラスメイトからはヌェル並なとらぶるめいかー葛之葉と言われておったからの」
胸を張るくーちゃん。それ、トラブルメイカーってトラブルを作る厄介な人って意味だよ?
ふふんっと鼻息鳴らしてどうだっと告げる葛之葉に、私たちは顔を見合わせる。
多分、彼女に何かを期待するのは止した方が良いのだろう。とりあえずムードメイカーとだけ思っておこう。
「あんまり外に出て妖研究所に感づかれないでくださいまし」
「むしろこの家に引き籠りたいのじゃ」
駄狐様になるようだ。次に会った時お腹プニプニ状態なら絶対に笑ってやる。そう心に誓っておくワタシだった。