果てなき逃走の始まり
現状を確認しよう。
老人にようやく会って来た。
可能性の段階だが過去に戻れる機械とやらに接触出来た。
問題はそれが老人の妄想でしかないのか、本当に戻れるのかがわからないことだが、やるべきことはやれたと言っていいだろう。
今はその老人が地下施設を作って隠れ住んでいる幽霊屋敷の最上階、その天井に【天井下】の妖能力を使って天井の中に部屋を作り、隠れ住ませて貰っている。
丁度老人にあったついでに土筆と合流するつもりだったから丁度よかったといえるだろう。
天井裏には土筆が既に非常食などをしこたま詰め込んでいたので生活だけなら一年くらいは出来ると思う。隠れて過ごすなら外に一歩も出ずに一年ほど過ごせるのだ。
残念ながらそれだけ隠れたところで意味は無いということで、このままここに隠れるだけでは直ぐに詰むことは明白だ。
相手は土筆の能力を知りつくしている暗殺班一班。
上司の九尾は土筆を殺したくてうずうずしているらしいし。
今、自分の手持ちにある手札を確認すれば、天井下の天原土筆。蛭子神のヒルコ。そして垢嘗の私、高梨有伽。
この三人だけだ。
武装は土筆が天井裏に常備している銃器一式。どれだけあるかは分からないけど、天井から土筆が切り離されない限りは無限と言ってもいい武器庫だ。
ヒルコは私の身体に常時纏わり付いている。
擬態しながら私の身体を守ってくれている。
軟体生物なので自由に移動できるし粘体として地面に溶け込むことも可能だ。
彼女の身体は硬質化もできるので刃物などの攻撃も防げるし、不意の打撃も防いでくれる。
さらに武器を隠す事ができ、任意のタイミングで私に渡してくれる。
武器として使えるのはまず草薙の剣。むしろ七支刀と呼ぶべき存在だけど、八岐大蛇の能力で生成された武器であり、特性として自動迎撃能力を持っている。
この武器を持っている間は私の身体が相手の攻撃を自動で防いでくれるようになるのだ。
この特性の御蔭で何度も死線を潜り抜けられた。八岐大蛇には分不相応のモノを貰ってしまったものである。でも、その恩を返す事が出来るかどうか。
何も知らなかったとはいえ、私がやったことは、彼女を地獄に送り届けることだったみたいだし。
絶対に……許さない、妖研究所。
次に稲穂から貰ったサバイバルナイフ。
別に刀身自体はそこまで特殊なものじゃない。市販されてるサバイバル用のナイフだ。
特殊なのはその刀身に張り付いている紫色。
これは稲穂の姉、よっちーの能力、紫鏡の能力だ。
鏡面となるモノならばあらゆるものを紫鏡として異界に引きずり込める能力者。
今は稲穂に切り裂かれ、首だけになっているものの、その能力は健在。
何の因果かまだ協力はしてくれているらしく、紫鏡の能力を使えるのである。
このナイフで切り裂けば、対象を紫の世界へと送り込める。遠距離武器を破壊する時などは重宝する武器だ。
他にもハンマーがあったんだけど、朧車戦で折れてしまったので使えない。
今はもしかしたらそのうち直せるかも、と天井裏にしまい込んでいる。
代わりに武器としてヒルコが持っているのが、砂浜の砂礫である。
武装も結構ショボイな私。
もう少し揃えられなかったのだろうか?
ああ、いや、もう一つ。とっておきの居候がいたな。
私の体内に共生しているもう一体の妖。
その名は【黴】。
あらゆるものを喰らい増えて行くだけの旅人だ。
私の妖能力が垢嘗で、抗体を持っていたから喰らわれることなく、私の体内に住みつくことにしたらしい黴たち。
今では運命共同体だ。私は住処を提供し、彼らは敵を排除する。
こいつが居てくれる限り、私に負けはない、筈だ。
さて、現状の戦力はこんな感じ。
次は取り巻く状況。
ここ、洋館は人里離れた森の中にひっそりと佇む幽霊屋敷だ。
島の中央寄りはやや北東寄り。
人は滅多にやって来ないし、隠れるには丁度良い。
誰の迷惑にもならないので敵と闘っても周囲を気にする必要がない。
島内の敵は暗殺班二班が主らしい。
といっても二班は偵察任務が主体らしいので私に攻撃して来ることはまずないらしい。
うわんの言っている事なので信頼は出来ないけど。だって敵だし。
島から出るにはフェリーに乗るしか道は無く、海の中にはラボの刺客達がいるらしい。
確認出来てるだけでも、七本鮫やら海狼やら海坊主などがいるらしい。
つまりフェリーで脱出しようとした瞬間、そいつらにフェリーを襲われ海に投げ出されるのだ。
無関係な民間人ごと、無慈悲に殺すのだろう。あの飛行機のように、七人同行が自爆して見せたように。
だから、今はまだ、島で迎撃だ。
敵を一人一人潰して行く。
その後で脱出法を考えよう。