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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 黒眚
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選手交代

「……う?」


「あ、起きたー?」


 志倉翼が起き上がった時、目の前に朗らかな笑顔の少女が居た。

 一瞬、高梨有伽に見えたのだが、頭が回りだすと直ぐに別人だと気付いた。

 といっても、瓜二つに見えたのは有伽ヘアに髪型を変えていた高梨留美だったからである。


 母親の、しかも見ようによっては有伽の姉妹に見えなくもない若作りの女なのだから見間違っても無理は無かった。

 一瞬いい年してなんて髪型してるんだ。と言いそうになるのを飲みこんで耐える。

 彼女がここに居るということは、自分は高港市まで戻されたようだ。


 自身の肩を見る。

 腕はごっそりと消えていた。

 この年で片腕生活である。


「……失敗、か」


「まぁ仕方ないって翼ちゃん」


「あんたもちゃん付けすんのかよ」


 溜息を漏らし、翼は真剣な顔に戻してから留美を見る。

 相変わらずへらへらとしていて掴みどころがない。

 だからこそ、本気で娘を殺そうとしているのが不思議でならないのだ。


「高梨を殺すの、変わらないんすか」


「仕事だからねー。あ、でもあたしも高梨なんだけど?」


「俺の中では高梨は高梨有伽のことです。母親のあんたが娘を殺しに行く必要なんて、ないっしょ」


 高梨留美がラボ所属だったのを知らされてから、翼は何度も言いくるめようとした。

 何度説得しても仕事だから。で片付ける留美。

 でも、殺す相手は自分の腹を痛めて産んだ子供なのだ。


 親が娘を殺しに行くなんて、そんなの間違ってる。

 だから、自分が有伽を殺しに向かった。

 でも、ダメだった。自分では制御出来ない力に頼ってすら無理だった。

 このままでは母が娘を殺しに行ってしまう。


「高梨が、報われなさすぎる。あんたが向かうのは、ダメだろ」


「残念だけど、上が下した決断なんだから仕方ないわよ」


 けたけたと笑いながらどうでもよさそうに言う。

 それが翼には我慢ならなかった。


「なんで、なんですか。あんたの娘だろっ! ここまで育てておいて、自分で殺すのかよ!?」


「有伽だろうと別人だろうと、殺害対象なんだから殺す。それがラボの暗殺部隊でしょ。その対象にたまたま自分の娘が指定された。ただそれだけのことよ」


「あんまりでしょ……なんで、あんたが……」


「従妹の出雲美果を殺した貴方とどこに違いが?」


「っ!? 俺は殺しては……」


「それは結果論。貴方は他の誰かに殺されるのは嫌だから、自分で殺した。同族みたいなものじゃない。とやかく言ってほしくないなー」


 留美の言葉に言葉を失う。


「じゃあ、あんたも、高梨を誰かに殺されたくないから自分で……?」


「え? そんなこと考えてないけど? とりあえず黴回収してぇ、無力化できればいっかなーくらい?」


「あ? じゃあ、殺すつもりはないのか!?」


 一瞬、思わず喜んでいる翼がいた。


「まー。私が殺さなくても? 黴を無くせばもう生存不可能っしょ」


 しかし、直ぐに奈落の底に突き落とされる。

 高梨留美とは根本的に考え方が違うのだと気付かされた。

 彼女は有伽のことを愛してない。


「あんたは、自分の娘を愛してないのかッ」


「愛してるわよー。娘だもの」


「じゃあ、なんでっ」


「娘は愛してる、でも仕事は別」


 愕然とした。

 この女の考えが分からない。

 翼にとって高梨留美は未知の存在だった。


 少しくらい、ほんの少しで良かった。

 自分の娘を手に掛けることに躊躇いでも覚えてくれていれば、自分だって苦しくとも納得できたのに。

 彼女が有伽を殺す事を、仕方無かったと思えたのに。


 この女はダメだ。

 こんな女の娘になってしまったことが有伽にとっての不幸の始まりだ。

 翼は思わずそう思った。


「あんた、結局何がしたいんだ? 娘を地獄に突き落としたいのか?」


「……人様に迷惑掛けてる娘を始末する。それだけのことでしょ。そんな事よりさぁ、はい」


 はい。と両掌を向けて来る留美。

 なんだ? と思いつつ片手を出してみると、ぽんっとハイタッチ。


「タッチ、こうたーい。翼ちゃんは高港市へ配送、あたしゃーこのままあ―坊殺して来るよ」


「は? おい、話はまだ……」


 どうやらここは高港市ではないらしい。

 既に留美が島に向けて向かう道中の病院だったようだ。

 おそらく島の手前にある本土の病院なのだろう。


「あーはいはい、病人ごーほーむ。んじゃ、ばーいびーっ」


 もはや話すことは無い、とでも言うように立ち去って行く留美。

 呼び止める暇すらもなかった。

 思わず布団に拳を叩きつける。


「クソッ、これじゃ高梨は、あまりにも……救いがねぇじゃねぇかよ」


 果たして彼女は、自分の母親が殺しに来ることまで計算に入れているのだろうか?

 あまりにも救いの無い有伽の未来に、何も出来ず、あまつさえ敵対してしまっている自分の現状に、自分が嫌になる翼であった。


 

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