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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 黒眚
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運命交錯2

「第一、君に危害を加えれば、君の中に居る悪夢が黙っちゃいないだろう。全く難儀な体だね。それでは処女喪失すらできはしな……ゴホン。失礼。そう睨むな」


 ギロリと睨んでやると慌ててわざとらしい咳をして謝る。

 それよりも、私の中に黴がいると知ってる?

 こいつ、何者だ?


「追い詰められているのは分かっているさ。けれど、こちらも過去を変えるために色々とやっているのだ。ちょっとだけ待ってくれ、αを起動させる。ようやく送り込む準備が整ったんだ」


 過去を変える? 変えられるのか!?

 葛之葉が言っていた言葉は嘘じゃなかった!?

 じゃあ、じゃあ真奈香を、救える!?

 真奈香も隊長も、父さんだって、救えるんじゃ……


 私の考えを他所に、老人はαとやらを軌道させる。

 どうやら最初に見た女性はαという存在らしい。

 最初だからαかな? 次はβか?

 しかし、ようやく送り込む準備が整った?

 じゃあ、あの女性に見える機械が、過去に戻る道具?


「話を聞いた。過去に戻れる技術があるって」


「ああ。必死にかき集めた知識でなんとか造った。ラナリアに所属していたことをこれ程に喜んだことはないさ。ふふ。人生何が役立つか分からんな」


 どうやら既に私がここに来ることも知ってたみたいだし、もしかして葛之葉が話を通してくれたのかな?

 でも、ラナリア? 職場か何かかな?

 でも、知識を集めれば過去に戻る機械を作れるのか?


 いや、違うな。この老人を見れば分かる。

 ただ求めただけでは作れない。

 絶対に過去に戻る。やり直す。そういった執念、否、妄執とでも呼べるモノがあって初めて成し遂げたのだろう。私以上に過去を追い求めた、そんな男だからこそ辿りついた結末なのだろう。


 果たしてどれ程のモノを捧げたのだろうか?

 金? 機械を揃えるのだ。金も伝手も使っただろう。

 何年もかかった筈だ。それこそ残った人生全てを使い果たす勢いで。

  

「……そうね」


 私はしっかりと老人を見る。

 今まで死にかけの即身仏と思っていたがとんでもない。

 強い意思を瞳に宿し、精神をいつかの時間で押し留め、必死に理想を追い求める若人の精神がそこに宿っていた。

 彼はまだ、欠片すら諦めていない。

 これからなのだ。彼の目的は、今、ここ、過去に戻る何かが完成した時ではない。ここから、帰る時、それこそが目的であり成すべきことなのだと、瞳が燃えていた。


「御願いがある。私を過去に戻して欲しい」


 だから、伝える。

 貴方の夢に、私も乗せてほしいと。

 過去に戻る。その妄執に、藁をも掴むつもりで頼み込む。


「残念だがそれは無理だ」


 即答された。

 なぜだ? 過去に戻れるんだろう!?

 たった少し、私の用事をやってくれてもいいじゃない。

 事のついでだ。そのくらいは可能だろう?

 思わず殺意を抱いたが、直ぐに押し留める。

 彼の眼に哀れみが浮かんでいたのを見てしまった。

 だから、邪魔をするなと一蹴した訳じゃないと理解した。

 彼には理由があって私の願いを聞くことが出来ないのだと、理由を聞かずとも理解した。


「理由を、聞いても?」


「俺の技術ではこの年になっても自分を過去に戻す術だけは造れなかった。戻れるのは、おそらく一度。時空石を組み込んだこのαだけだ。戻れるならばよし、失敗すればおそらくアレに気付かれる。時空の管理者にバレれば後はもう、ない」


 ダメ、なのか。

 私の願いはやっぱり叶わないのか……

 彼には彼の願いがあり、その為に作り上げた機械だ。私の我儘で破壊していい物ではない。

 それは、それだけは分かってしまう。

 自分も追い求めたモノだから。同じ存在の作り上げたソレを無理矢理奪い取るなど出来るわけがなかった。それは、自分も取り上げられても仕方ない行為でしかないのだから。


「だが、まぁ手はある」


 はっと顔を上げる。

 諦めそうになった自分が恥ずかしい。

 彼だって意地悪がしたい訳でもないし、私の気持ちだって良く分かっているのだ。


「彼女にいつ、何処で何が起きるか、そしてその現象をどうしてほしいのか、伝えておくといい、上手くいけば、その時期に誰かに何かを伝えられるように彼女が動けるかもしれん」


 私は泣いた、声を押し殺してαのもとへと近づいて行く。

 そうか、これが何故女性型をしているか、否、人型をしているのはなぜか、人として過去で動き、何かを変えるために造られたのだ。

 つまり、ソレを変えた後、役目を終える筈の彼女に、私の願いを伝える。

 そうすれば、もしも彼女がその時まで可動できていたのなら、救える。

 真奈香を、隊長を、父さんをっ。


「マスター、こちらは敵ですか?」


 起動したαは言葉を喋る。

 しっかりと目を開き、こちらを見ていた。

 人間と瓜二つ。動きが機械めいているのは仕方無いことなのだろう。

 今の技術で人にしか見えないような機械が作られるだけでも彼の技術が凄まじいのだ。これで人にしか見えない動きまで出来てしまえば、彼はもはや神だ。

 

「反撃は不要だ。話を聞いてやれ」


 老人の言葉αが聞く態勢に入る。

 だから私は伝えた。

 自分が犯した過ちを、もう戻らない大切な者を。

 助けてほしいと懇願する。

 機械でしかない筈の彼女に、慟哭しながら必死に伝えた。


 老人が、可能であれば手伝ってやれ。と告げると、αが了解の意を唱えた。

 本当に、これで助けてくれるのだろうか?

 不安しかない。

 でも、でも……だ。

 過去を変える光明は差した。

 後は彼女が本当に過去に戻れるのかどうかだが、それは確かめる必要などないだろう。

 むしろ、私がここに居れば居場所を察知したラボの刺客たちにここが襲撃されかねない。


「行くのか? 終わりのない旅へ?」


 老人は意外そうに告げる。まだ話したいことがあるらしい。

 老人の話だ。きっと長い長い昔話だろう。

 さすがに付き合ってやれるような精神状態じゃない。


「ここは私の居場所じゃないから。こんなとこでぬるま湯に浸かったら真奈香に笑われるから……」


 儚い笑みだけを残し、果たしは立ち去った。

 彼の妄執は叶うのだろうか?

 彼の向かう先に幸福はあるのか?

 あれだけ年老いているのだから、きっと自身の願いが叶うかどうかは分かる前に力尽きるかもしれない。

 昔話か、もしも追われていない時だった聞いてたんだろうけどな。すまない老人。私はもう、立ち止まっていられないんだ。


「さぁ。頼むぞα。未来をこの未来へと辿り付かせてくれ。お前という一滴が全てを変えるんだ。どうにもならない世界はもう沢山だ。過去の俺が求めたこの世界へ、未来を辿り付かせてくれ。俺ではない過去の俺のように、続く俺達が慟哭しないように、■■■■を救ってくれ。お前だけが、頼りだ」


 ……んん?

 通路に聞こえる力強い老人の声。

 過去を変えるんじゃなかったの? この未来に辿り付かせる?

 いや、私にはきっと関係の無いことなのだろう。助けは既に求めた。

 さぁ……逃走を始めよう。

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