エピローグ・悪夢の追跡者
「さぁて……そろそろ妾も動くかの」
潰れた神社の屋根の上。
月灯りに照らされて、狐の娘が伸びをする。
怠惰な時間が終わりを告げた。
電話を取り出し連絡を取る。
奴はいつでも起きている。
切羽詰まった状況でもない限り普通に出るだろう。
『来たか葛之葉』
「いやー、参った参った。今回は完全に後手周りじゃ。闇医者の元へ有伽を案内すら出来ておらんのに雲隠れじゃ」
『嬉しそうだな。何があった?』
「嬉しくは無いぞー、この島既に外堀埋められて脱出不可能。有伽も妾も追い詰められるネズミちゃんじゃ。いやー、流石にちょっとゆっくりし過ぎたかの」
『馬鹿を言うな。貴様なら普通に脱出できるだろう。で、何の用だ?』
「有譜亜が完成した。そろそろ高梨有伽が赤城と出会う」
『……そうか。こちらも報告がある』
屋根の上から足をぶらぶら。遠目に見える街並みを見つめながら葛之葉はなんじゃ? と気楽に尋ねる。
『次の刺客、ラボの一班が動く』
「おっほーぅ、ついに来たか。いよいよよなー。妾こわーい」
『高梨有伽の母がいる』
「コーンッ!? なんでじゃ!?」
『私が知るか。奴は私が天津神祖と知っていたぞ?』
「おおぅ、そりゃ、なんとも」
『全く、あの時の失態がここまで世界に影響を与えるとは思わなかった。取り逃がしたのは大きかったらしいな』
「懐かしいのぅ、秘密結社ラナリア。そしてソレを乗っ取った妖研究所……まさか龍華の血をこんなことに使うとはのぅ」
『もう、その話はいい。高梨有伽に伝えてくれ。約束の大地で待つ、みごと生き足掻け、と』
「会えるかどうかは知らんぞ?」
『それでもいい。今はもう、お前しか頼れる者がいない』
「にょほほ、泥船に乗った気持ちでいるが良い。妾に全て任すのじゃ」
『不安しかないな……せめて奴の所在が分かれば手の打ちようもあるのだが……』
「敵は、首領か? 行方不明のままだったろう?」
『いや、ここまで巨大化してしまっては首魁を屠ったところで意味は無い。一つずつ、気付かれずに始末しなければ……』
ぷつっと通話が切れる。
どうやら最後は独り言だったようだ。
無理じゃろ。とだけ言葉を返し、空を見る。
雲一つない空に綺麗な月が一つ。優しげな光が降り注ぐ。
「高梨有伽……か。空の月か水鏡月か、そなたが手にするはどちらよな? 周囲の助け無くばこの地からすら出られんぞ? 折角知りおうたのじゃ、死んでくれるなえ?」
月灯りに照らされて、葛之葉の影が伸びる。長く伸びた影の尾は、長く、九つにたゆたっていた……
新しい会社が残業続きなのと低体温症でダウン中のため、次話以降の更新は不定期になります。ウサギさんの方優先しますw
主な理由:ストックが済んだので _:(´ч`」 ∠): 3月過ぎまで忙しいから連日、とか聞いてないよぅ……