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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 袈裟羅・婆娑羅
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禍福の異変

「あーらら、折角助っ人に来たのにあんたもあの男も死んでちゃ世話ないわね」


 屋鳴りが笑いながら言う。

 しかし、倒れたままの亜梨亜は返事すらできない、否、既に意識すらないかもしれない。

 今まで有利だった妖能力戦はオーバーヒートで気絶という最悪の結果で敗北した。


 屋鳴りの嘲笑だけが耳から聞こえている状態だ。

 悔しいという思いすら既に出来る状況ではない。

 意識が途絶え、後はただ屋鳴りのなすがまま、このまま何時でも殺される可能性があるのだ。


「ま、さっさとトドメを刺して次に行こうか。敵対者は殺して良かったわよね?」


 相手に触れて振動させる。それで勝手に熱膨張で破裂するのだ。

 綺麗な顔の女が無様に破裂して消え去る。

 ソレを見るのは屋鳴りにとっては愉悦であった。

 自分以外の美人など全て醜く死ねばいい。


 手を亜梨亜に触れさせようとしたその瞬間、だった。

 不意に落雷が自分の近くに落下した。

 思わずびくんっと驚いた拍子に足元の砂が崩れ尻持ちを付く。


「ひゃんっ!? え? 何今の? 不幸?」


 ケセランパサランがいる今の状態、こんな失態はまず起こらない、小さな不幸ではあるが、起こり得ない筈の不幸であった。

 海が猛り、津波が押し寄せケセランパサランがずぶ濡れになる。

 不幸だ。ありえないはずの不幸がこちらに起こっている。


 おかしい。

 幸運力勝負はケセランパサランが勝利した。

 ならば不幸になるのは敵である根唯と亜梨亜である筈だ。


 ケセランパサランも根唯の残された幸運力では自分に勝てないから大丈夫だと言った筈ではないか。

 なのに波でゲーム機が壊れて不幸だっと嘆き悲しむケセランパサランが目の前に居る。

 これは一体どういうことだ?


 嫌な予感を覚えた屋鳴りは即座に亜梨亜に手を伸ばす。

 しかし、ぎりぎりで気付いたらしい亜梨亜が幸運にも転がり逃げた。

 地面を震動させてしまい自身の足が砂に埋もれる。


「くっ!? どうなって……」


「うわ、靴になんか入った。痛い痛いっ」


 時を同じくケセランパサランが靴を脱ぎ投げ捨てる。

 靴の中からカニが出て来て海岸沿いを横歩きしている。

 変だ。

 慌てて周囲を探る。

 変化と言えばあの男が気になることを言って死んだくらいだ。


 俺達の勝ち?

 俺達とは誰だ? 殿とゆかいな仲間たち?

 誰だ? 誰が仲間だ?


 妖の気配を探る。

 見付けた。

 見付けてしまった。

 近づいてくる反応が一つ。


 そちらに目を向ければ、降り始めた雨の中、ゆっくりと歩く二人の男女。

 ヤバい。

 何かヤバい。


 黒尽くめの男には妖反応は無い。

 しかしもう一人の髪の長い女にはある。

 確実に妖能力者。


 アレだ。

 あいつらだ。

 幸運を使い果たして死んだ男が言っていた仲間はこいつらだっ。


「なん、だ? 何だお前らッ!?」


「あーあ、露払いに呼ばれたけど、呼んだ人が死んじゃったよ?」


「少し遅かったな。もう少し早く連絡をくれればよかったのだが」


 二人の男女は淡々と会話する。

 屋鳴りの言葉など完全に無視だった。

 そして、辿りつく。


「なんで? なんでだよっ! 僕の幸運が、なんで無くなってるんだっ!?」


「え? だって、死んじゃったでしょ? 身内の死なのだもの、当然だよね?」


 目が隠れる程に長い髪の女が不気味にクスリと笑う。

 得体の知れない女にケセランパサランもまた不穏な気配を感じたらしい。

 根唯をそっちのけで能力を全開する。


「不幸になっちまえよっ!」


「無・理、だって、貴方が殺してしまったのだから。殺したらその知り合いが幸運になるんだよ。それが私の力なんだから」


「なん、だよ? なんなんだよテメェっ! お呼びじゃねぇんだよ! ゲーム返せよっ、僕の最強チームどうしてくれんだよっ!!」


「屋鳴りは私が受け持とう」


「了解、んじゃぁあいつはなんとかしましょう」


 軽口叩いて女が走る。

 根唯は見ていた。

 根唯だけが見ていた。


 出現からわずか数分、女が疾走し、その腕がケセランパサランを貫いた。

 たかが子供に反応できる速度じゃなかった。

 ……一瞬だった。


 男が走った。

 必死に立ち上がった屋鳴りが両手で掴もうとした。

 でも無理だった。


 捕まる瞬間何かを察したように動き的確に隙を付かれる。

 最後に蹴りが鳩尾に叩き込まれ、一瞬で意識が飛んだらしい。

 そして、身体までが吹っ飛び、待っていた女に背中から身体を貫かれて息絶えた。


 何が起こったのか理解できず、ただ呆然と立ちすくむ。

 根唯の預かり知らぬ場所で、事態は一瞬で解決されてしまった。

 ゆえに彼女はただ佇む。


 軽々と助っ人をしに来た見知らぬ二人は、遺体となった博次を抱えると、根唯が我に返るより早く引き上げてしまった。

 ゆえに、一人取り残される。

 何が起こったか理解できぬまま佇む。

 雨に濡れる砂浜には気絶したままの亜梨亜と、心臓を貫かれ奪われた、二人の骸だけが横たわっていた。

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