天候を統べし者
怯んだ。
その一瞬で舌に絡めたナイフで一撃。
当るかと思ったが強烈な烈風が吹いて身体ごと吹っ飛ばされた。
あと数ミリの距離だったのに、今のはあいつの攻撃か?
ヒルコに手伝って貰って身体を上手く着地させる。
吐息が烈風になるとかやってられないな。
でも、今の一撃は緊急的なものだったようだ。
肩で息をして疲れを見せていることから、妖能力の消費精神力がテケテケとはケタ違いなんだろう。
「クソ、やっぱり消費力がキツイ」
「無理矢理くっつけた妖だからじゃない」
「そう、だな。クソみたいな消費で精神力があんまし持たねぇ。悪いが速攻でケリ付けるぞ」
言うじゃん。
速攻で殺せるもんなら殺してみろ。
こちらも速攻で殺しに行くからっ。
「ヒルコ、全力で行くよ」
「そういやぁ、もう一匹変なの飼ってやがったな高梨ッ!」
赤い腕の一撃をヒルコのフォローで回避して、草薙で切りつける。
クソ、あの腕めちゃくちゃ硬い。
普通の腕なら斬れてるだろうに、金属音して弾かれたぞ!?
なんなんだよあの腕。
本当に面倒過ぎるだろ。
あの腕、もしかして翼の寿命とか吸って力に変えてたりしないだろうな?
いくらなんでも一人の人間には過ぎた能力だぞ?
何しろ、さっきから晴天になったり雨が降ったり、冬が来たり、風が吹いたりと忙しなく天候が変わっている。
この天候の変化が地味に身体に来るのだ。
あいつ、狙ってやってるんなら驚きだが、翼ちゃんだしな。おそらく腕が勝手に動いてるんだと思う。翼の精神力か生命力かを削って勝手に、だ。
可能であれば引き剥がしておきたいな。
出来るかと言えば、あの付け根辺りが怪しいか。
翼の身体に食い込んでると言うよりは腕を切りとって無理矢理縫合した感じだ。
あそこを狙うか。
しかし狙ってるのがバレると警戒されるし、面倒だな。
仕方ない、本命はそこ狙いでしばらくは別の場所を狙って注意を逸らすしかないか。
上手く隙を付ければいいんだけど。
とにかく、あの腕は危険だ。
翼から切り離すのが一番だろう。
上手くいくだろうか?
否、上手くやらねばならない。
なにしろソレが出来なければ永遠翼が追って来るだろうから。
そして翼を殺すにもあの腕の脅威があるとないでは雲泥の差だ。
翼から燭陰を切り離す。
それが今からの優先事項だ。
翼は武器を持ったりはしていないようなので、基本私の剣撃は赤い腕で受け止め払い、反撃して来る。
さすがにあの一撃に当りたくは無いので大きく避ける。
大ぶりしてくれるからかなり避けやすい。
多分だが私を捕まえようと必死なんだろう。残念ながらそんなに必死になられても攻略しやすくなるだけだからありがたい。
肩からくっついてるから引き離すとなると左腕ごっそり削らないと無理だな。
紫鏡のナイフと神龍、どっちが強いかな?
烈風に吹き飛ばされる。
近づけないので逃走開始。
逃げるなっと行ってくるけど、距離取ったら逃げるに決まってんじゃん。馬鹿か?
何故逃げるかって? 吹き飛ばすと逃げられると思い込ませるためさ。
そうすることで迂闊に私を吹き飛ばせなくなる。
無理に烈風の中近づこうとするのは馬鹿のやることだ。それしか出来ないならともかく、他に手が無数と打てる状態で真正面から受けて立つ必要なんてない。
吹き飛ばされたら逃げる。
追い付かれたら攻撃。
烈風で距離を取ろうとすれば即座に逃走。
やりにくいだろうな。
殺し合いすると見せかけて直ぐ逃げる相手と闘うのだから。
ストレスもたまるだろうし、追う側なので相手の動きを見て追って来ないといけない。その判断に精神力の負担が増える。
燭陰の使用で精神力の余裕はないだろう翼にはこの戦法が一番効きそうだ。
逃げては斬り、逃げては斬り。
やがて烈風を使いそうになった瞬間私が逃げるそぶりを見せると、慌てて烈風を止め始めた。
好機到来。
フェイントが入れられるようになった。
近接戦を繰り広げる。
近づき過ぎなのだろう、煩わしそうにする翼が耐えきれずに烈風の構えを取る。
私が逃げるそぶりを見せ、しまった、と思わず止めた一瞬。
躊躇した翼めがけ、一気に踏み込み紫鏡のナイフを煌めかす。
ワンテンポずれた翼は焦りながら必死に烈風。
さすがに咄嗟には使うか。
なら、逃げるだけだ。
吹っ飛ばされた勢い使って走り出す。
思わず使ってしまった烈風で私が逃げだしたのを見て慌てて追って来る。
悔しげに呻く翼ちゃんに思わず油断しそうになる。
気を付けろ私。最初に出会った時だってこいつを甘く見たせいで逃げ切れなくなったんだ。
翼を敵とするなら絶対に油断はしてはならない。
一度でも下に見れば確実に殺される。
油断はしない。蔑みもしない。
翼は強敵。それだけは確かなものなのだから。