追跡者と妨害者
「おい、嘘だろ!?」
森の中を逃走に選んだ私達だったが、早々荒川が追い付いて来た。
しかも少し遅れて翼まで合流してしまった。
まさかの防衛部隊即突破である。
電話連絡を取った江西が言うには、荒川が影女を突破。美三留が襲われそうになったが暮阿が助け出したらしい。
ほぼ同時刻。翼を翻弄していた近藤も見付かってしまったそうだ。
翼が私向けて即座に追跡再開したらしい。
もう来てんだよ! 連絡遅いよっ。
あと雄也を川北が助け出したそうだ。今は病院に向かってるらしい。
意識はあるので多分大丈夫だそうだ。
大量出血したから輸血は必至だろう。
それでも生還出来るのなら貰いモノ、きっと運が良かったんだろう。
とはいえ、こっちはかなり運が悪いんだけども。
江西が衝立狸で木々の隙間に衝立を立てて行く。
衝立も燃えるモノなので下手に荒玉の炎弾は使えないようだ。
仕方なく叩き壊して後を追って来る。
翼も別方向から追って来るが、桃井の脛擦りが足元に纏わり付いて転がりまわっている。
翼ちゃんには丁度良い。必死に追ってきてるけどすっ転んで衝立に頭突っ込んでじたばたしてる姿が滅茶苦茶似合ってる。
逃走戦なら衝立狸と脛擦りは鉄板だな。
「クソがァ、なんつーガード力なんだよ! ×××堅過ぎんだろが! どんだけ×××すりゃ×××んだ!?」
おっさん、あんましヤバいワード言わないでくれます?
「おいクソ野郎、デケェ声で変なこと言ってんじゃねぇよ! 品位が疑われんだろうが!」
「テメェの品位なんぞ犬に食わせちまえ! クソ、男共が寄ってたかって俺の邪魔すんじゃねぇ! 高梨有伽ァ! 一発ヤらせろぉッ!」
「最悪かっ!?」
クソ、マジにヤバいの来ちゃってんじゃん。あいつは確実に息の根止めとこう。マジでヤバい。というか……反撃に黴でも放ってやろうか?
いや、流石にソレはダメか。アンサー君が言うには逃げまくれだし、追い付かれるまでは必死に逃げるのが一番なんだろう。
面倒だが逃げるしかない。
進路は一旦森を抜けて朧車が一周していたコース周回だ。
アイツ島を一周する時にあの崖については森の中を突っ切るだけにしてたみたいだし。
そろそろ街道への合流地点がある筈なんだけど……森を抜けたら衝立だけじゃ妨害は難しいか?
「問題無いよ有伽さん、このまま行こう!」
「まぁ問題無いならこのまま行こうか」
森を抜ける。海へ続く街道だが、こちらは根唯達のいる砂浜とは逆方向だ。
島の裏側に当るので私はあんまし来た事は無い。
こっちの方は江西と桃井にお任せした方が良いだろう。こいつ等について行けば……
「ここでバトンタッチだ。高梨さんをよろしく!」
「俺らは出来るだけ引き留めるよ」
あれ? 一緒に逃げるんじゃないの?
「有伽、こっちよ、急いで!」
江西達がここに残り、二人の女生徒が私の前に現れる。
射魏楠葉と三枝秋香だ。
「泥田坊が殿務める」
「ここから海沿いだから水虎も大活躍よ」
「あと、高麗先輩から海の方に複数の妖反応があるから海を逃げるのは無理そうだって」
高麗誠二はたしかしらみゆうれんの妖使いだったな。海を索敵してくれたらしい。
水の中じゃないと妖使えないからあまり役立てないってぼやいてたなそう言えば。
「ほら、急いで有伽。もう少ししたら小峠先輩と渡嘉敷先輩がいるから。そこまで逃げ切ればもう逃げ切ったも同然だよ」
花子さんか。トイレに飛び込めってことだろうね。
出来ればトイレ飛び込みたくはなかったな。
四の五の言ってられる状況ではないけどさ。
翼と荒川は衝立の森で引きとめられているようだ。あれならもうしばらくは安全だな……いや、だめか。
森を抜けたせいで荒川が火炎弾を飛ばし始めた。
当たった桃井が暴れ出して江西を転ばせてしまう。
その隙に衝立を破壊した荒川が突破して来た。
ついでに江西にも炎弾喰らわせて荒れさせると、追撃も無くなってしまい翼共々障害物無しに走りだした。
クソ、あいつら足早ェ。
このままじゃ追い付かれるぞ!?
「大丈夫。そのまま走ってください!」
楠葉が泥田坊で妨害に向かう。
荒川の炎弾が直撃し、泥田坊が暴れ出す。
だめじゃん。あ、でもあいつら向かっていったな。
田を返せェェェとか言いながら突撃された荒川が罵声浴びせながら泥に塗れて行く。
「しゃらくせぇ!」
翼が赤い腕を泥田坊に突き付ける。
次の瞬間、物凄い烈風で泥田坊を吹き飛ばした。
なん、だ……あれ!?
「発動条件は触れること、ですかね?」
「発動条件? あ、翼の新能力!?」
「はい、普通の能力ならすぐにでも使う筈です。でも使っていないということは何らかの使用条件がある筈。それが、多分ですが、触れていないと使えないのではないかと」
まだ一回だけだから何とも言えないが、可能性は高い。
できるだけ触れないようにしないといけないってことか。面倒臭い。