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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 荒魂
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ゴミの群れの女王

 常思慧亜梨亜はもともと引っ込み思案であまり危険なことには首を突っ込まない小動物のような少女だった。

 当然ながらこんな所で屋鳴り相手に闘うなどといったことは出来る少女じゃないのだ。

 だが、彼女は出会ってしまっていた。


 高梨有伽。

 最悪最強とも呼ばれる口付けを受けてしまったが為に新たな扉を開いてしまったのだ。

 ゆえに常思慧亜梨亜の人生観は大いに狂った。

 本来は絶対に参加しないだろう命のやりとりであろうとも、有伽お姉様のためならば、と彼女はここにやってきた。


 有伽が安心して逃げられるように。

 目の前に居る屋鳴りを自分が受け持つ決意を持ったのだ。

 だから、屋鳴りは絶対にここから動かさない。

 その決意を持って対峙する。


 海にどこからともなく打ち上げられたゴミの群れ。

 塵塚怪王たる亜梨亜からすればそれは全て自分の眷族だった。

 ゆえに、ここは彼女のテリトリー。


 屋鳴りが震えて飛んで来たゴミを粉砕して行くが、物量は亜梨亜が勝っている。

 屋鳴りが進み、ゴミが彼女を押し返し、振動でゴミが破砕されて行く。

 一進一退の闘い。


 闘いと呼べるかどうかは微妙だが、亜梨亜は浜辺に打ち上げられた浮輪や木片、流木、網、貝殻。あらゆるゴミを操り屋鳴りの動きを止めて行く。

 限りはあるが無限に近い残弾を迷いなく屋鳴りに送り込む。

 屋鳴りは屋鳴りで必死に亜梨亜に近づき倒そうとしているのだが、飛んでくる無数のゴミに押されて倒れたり、退いたりで進めない。


 それでも、たまに襲いかかる釣り針など致命的な物は自身に当る前に完全に粉砕しているが、物量の凄さに劣勢に立たされる。

 屋鳴りとしてはさっさと撃破して有伽を追うか、ケセランパサランを助けるかしたいのだが、予想以上に亜梨亜が厄介な存在だった。


 塵塚怪王は寄り集めたゴミで巨人を作れる。

 しかし、単一の王では屋鳴りにとっては良い破砕の的でしかない。

 ゆえに質より量であった。


「大したもんだわ。でも、いいの?」


「いい? って、何がですか?」


「いや、そんな妖能力、連続使用とかしたことないんじゃない?」


「そんな事どうでもいいでしょう。貴女には関係ありません」


 この連撃の合間にも会話できる余裕があるのか、と亜梨亜は思わず唇を噛む。

 これは殺し合いをしている暗殺班一班の屋鳴りにアドバンテージがあるということではあるが、相手に余裕があると言うのが亜梨亜としては看過出来る物ではなかった。

 だが、だからと言って威力を上げたり速度を上げたりはできない。

 何故か? それは……


「気絶しそうなくらい頭痛くなってない? 妖能力って実は結構頭使ってるみたいなのよね。超能力とかみたいな? だからあんまし使い過ぎると脳に負担が掛かるのよ。良くて気絶、悪けりゃ鼻血垂らしてオーバーヒート。そのまま死ぬかもねー」


 つまり、屋鳴りには余裕があった。

 初めから飛ばし過ぎな亜梨亜はその内力尽きる。

 だからそれまで耐えればいい。


 悔しげに顔をゆがませる亜梨亜にニヤリと笑みを浮かべる。

 怒りにも似た感情を爆発させ、亜梨亜が威力を高める。

 しかし、ぽたり。唐突に鼻の中に熱を感じ、亜梨亜の足元に赤い液体が落下した。


「あらら、ついに来ちゃった?」


 鼻から血が溢れだす。

 頭が熱い。擦り切れそうだ。

 意識がもうろうとし始める。

 それでも、敵はまだ無傷。


「まだ……行けるっ」


「諦めて逃げときなさいな。貴女じゃ無理よ」


「そんな事、そんなことないっ」


 怒りに任せて必死に能力を使う。

 ガトリングランチャーのように無数のゴミが屋鳴りを襲う。

 致命的な物だけを丁寧に破砕し、亜梨亜の終わりを待つ。


 そして、終わりは唐突に訪れた。

 プツンと、テレビの電源を切ったように視界が消えた。

 あれ? と思った時には倒れていた。


 頭が上手く回らない。

 身体が上手く動かない。

 能力を上手く使えない。


「はい御苦労。良く頑張ったご褒美に屋鳴りさんが直々に殺して差し上げよう」


 動け、動け動け動け私の体。

 こんな程度で負けてどうする。

 有伽お姉様の助けになるつもりなのに、ここで死んだら意味が無い。


 思いは空転し、身体は痙攣する。

 両目は充血し真っ赤を通りこして血紅けっくに染まり、鼻からは止めどない血が流れ出る。

 完全な自滅だ。

 相手を足止めすらできない役立たずな助っ人になってしまった。


 ゆっくりと誰かが近づいてくる。

 ああ、ダメだ。動け、動いて私の体。

 亜梨亜は必死に自身に問いかける。しかし脳から先に伝わらない。


 悔しげに呻き、必死に願い。

 手伝いすら出来なかった自分を悲観する。

 御免なさい有伽お姉様。

 意識が途絶える寸前、有伽の顔が浮かんだのは、きっと彼女にとっては幸せだったのかもしれない。

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