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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 荒魂
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役立たずの助っ人

 マズい。

 必死に自身の幸運を上げながら根唯は焦りを覚えていた。

 あの血の量はヤバい。

 このまま放置していたら雄也が死んでしまう。


 だけど目の前に居るケセランパサランを放置するわけにはいかない。

 こいつは幸運を司る。自分がこいつの幸運を下げておかないとこいつにとって都合のいい事、つまり高梨有伽が捕まったり、雄也が死んだり、自分が負けることに繋がってしまう。

 有伽を逃したのは早計だったか? でも有伽を襲って来た残りの二人がいたので有伽を残すと四対二の闘いになる。


 それに比べれば今は幾分マシだろう。

 敵は二人だが、対処は可能だ。

 とはいえ、それは能力を使用する必要がなかった場合だ。

 幸運能力を必死に引き上げることで対応しているため、不用意に動けない。


 既に屋鳴りがゆっくりと雄也に近づいている。

 マズい、雄也が。誰か、雄也を、助けてっ。

 こちらを嫌らしく見た屋鳴りが雄也に震える手を近づける。

 止めろ、止めろ止めろ止めろっ。


 雄也の顔に手が触れるその瞬間。

 雄也の身体が一瞬で背後に吹き飛んだ。

 否、つり上げられた雄也が釣り人の元へと回収される。


「大物ゲット! なんつって」


「馬鹿なんですか先輩。さっさとそいつを病院連れて行って下さい!」


「分かってるよ、常思慧さん、負けんなよ」


 雄也を回収したのは【浦島太郎】の妖能力を持つ川北奉英。亜梨亜共々助けに来てくれたようだ。

 亜梨亜は即座に海岸に打ち寄せられていたゴミを周囲に集めて塵塚怪王を作成する。

 屋鳴りを相手してくれるらしい。


 良かった。少しくらいは幸運があるらしい。

 そう安堵したのだが、ケセランパサランはむしろこれを待っていたように笑みを浮かべていた。


「使ったね」


「……え?」


「使っただろう。幸運を。僕と拮抗したのは驚いたけど、そのウチのちょっとだけを死にかけの男に使ったね? 幸運を使ったよね。だから、この勝負は僕の勝ち。僕らの勝ちだ」


 ゾクリと背筋を何かが這った。

 何か致命的なミスをした気がする。

 いや、そんな筈は無い。何も、目に見えるような失敗はやってない。


 唐突に、何かしらの闘いが始まった。

 見えない何かを使っての潰し合い。

 慌てて相手に反撃を行う。


 相打ち相打ち相打ち相打ち。

 同質量の闘いらしく、何度も何度も相打ちが繰り返される。

 相手の攻撃に合わせて同質量の何かを使って行く。


 ああ、ヤバい。

 これはマズい。

 今更ながら理解した。


 これは通常の闘いじゃない。

 禍福という名の目に見えない何かを操るモノだけに許された闘いだ。

 双方の幸運を打ち消し合っていく闘いだ。

 負ければ、ベットした分の幸福分、不幸が訪れる。


 マズい。

 このままいけば確実に負ける。

 それが分かる。

 分かるのに手を打てない。

 既に大切な幸運部分を使ってしまっているから。


 ほぼ同質だった。

 むしろこちらがホントは勝っていた。

 なのに雄也を助けるために使ってしまった幸運が、たった少し、相手の幸運より少なくなってしまった。

 ゆえにケセランパサランが仕掛けて来た。

 見えない幸運をベットして打ち消して行くだけの簡単なゲーム。

 総量が高いだけで勝てる簡単なゲーム。


 根唯はソレを知らずに使ってしまった。

 たった少し使ってしまった。

 だからこそ出来てしまった隙だ。


 急速に消費されて行く互いの幸運。そして、たった少し残った幸運が勝敗を分ける。

 尽きた。

 それが分かる。

 尽きてしまった。


 亜梨亜が必死に屋鳴りの振動を引き受けてくれていたのに。

 負けてしまった。

 根唯が崩壊のきっかけを作ってしまった。

 マズい、マズい、マズい、マズい。


「はい、これでゲームオーバー。あんたの負けだちっこいの」


 幸福が尽きた。幸福を操る存在が、幸福を底付かせてしまった。

 ゆえに起こるのは幸福を失ったモノへの不幸の群れ。

 思わず足が後ろに引いた。

 でも、もう既に遅かった。


 ドクンっと不幸にも心臓が鳴る。

 急激な心臓発作。

 マズい。必死に幸運を掻き集める。ダメだ。マズい、終わる。


 踏み込んだ足がずぶりと埋まる。

 不幸にもそこだけ空洞だった。

 バランスを崩し、慌てて腕を突こうとする。

 不幸にもそっちの腕は既になかった。

 頭から落ちる。

 そして不幸にも……


 頭を打って死に絶える。

 一瞬だけだが、ソレを知った。思い知った。無数の不幸で殺される。

 そう、思ったのだ。


 ただ、根唯もケセランパサランも気付いていなかった。

 もう一人。幸運を司る存在がこの島に居たことに。

 根唯が崩れるその瞬間、根唯の身体をがしりと支える。


「え?」


「よく耐えたぞ赤峰根唯。増援三人目だ」


 そこに居たのは財前博次。そう、金魂という名の、金運を操つり、幸福を運ぶ妖使い。


「ざ、財前君?」


「あまり接点は無いが今回は俺が活躍出来そうだからな」


 そう言って代打を買って出る。

 だが、ダメだ。

 金魂の実力では相手の幸運量に勝てない。

 わずかな差で自分が負けたとしても、そのわずかに残った幸運量より金魂の幸運力は弱い。所詮金運だけを上げる金魂では地力が違い過ぎるのだ。


「それでも、闘えるならやるしかなかろう。全員が全員出来る事をしているんだ。手が空いてる者が手伝って何が悪い」


 そう言って儚い笑みを浮かべる。

 根唯は知っていた。根唯を救うために自分の幸運力を分け与えていることを。

 ゆえに既に彼自身の幸運は殆ど無い。わずかに根唯の幸運を上回っただけのケセランパサラン、その余った幸運程の幸運すら残ってない。


「それでもな、アンサー君に聞いたのだ。こいつを倒すには俺がいる、と」


 決意を持って、彼はケセランパサランに対峙する。

 絶対的死が待っていると分かっていながらも……

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