見捨てての逃走
どうする?
揃った敵は四人。
仲間は倒れた雄也。既に死んでるかもしれない。血溜まりが出来ている。
根唯、ケセランパサランに掛かりきりで動けない。
むしろケセランパサラン以外の敵が根唯に行かないように私が三人を引き付けないと死ぬ。
他のメンバーは? 私達がどこに居るかも分からないから手伝いにすら来れない。
詰んだ。詰んでる。このまま闘っても壊滅するだけだ。
焦る。久々の焦りだ。思考回路が狭まってしまう。
「有伽、逃げて……」
「で、でも……」
「あたしらは有伽を助けるって決めたんだ。だから、逃げて」
勝てない。それを理解したから根唯は告げる。
悔しそうに、自身だけではどうにもならない絶望に必死に抗おうと声を荒げる。
「高梨有伽ッ、今は逃げぇっ!!」
びくんっと身体が反応した。
弾かれるように逃走する。
すぐさま炎弾が飛び交い、振るえる女が迫り来る。
おそらく震々と同じ触れたら振動粉砕されるパターンだ。あの女には迂闊に触れられない。
ヒルコが砂を掴み取り体内で押し上げ、触手を使って女の顔に投げつける。
視界を塞がれた女は足をもつれさせて倒れた。
炎弾を避けながら包囲のない場所へ。
後ろは振り向けないからヒルコに任せる。
ヒルコが指示を出し背後から迫る炎弾を避けながら走りだした翼の赤い腕による攻撃をギリギリで避ける。
ゾクリと来た。
今の一撃、少しでも触れたら恐ろしい事が起こりそうな、嫌な気分だった。
ヒルコが翼の膝裏を鞭のようにしならせた一撃で強打。
がくっと翼が後ろ向きに倒れ込むのを見ることなく、私はその場を駆け去った。
だから、ごめん根唯。ごめん雄也。私、二人を見捨てるっ。
「クハハッ! 逃げやがった。あの女自分の生存優先したぞ。すげぇ、迷わず味方見捨てやがった。惚れちまいそうだッ」
「お前ホント腐ってやがんな」
私の後ろを翼と荒川が追って来る。
どうやら屋鳴りは私を追わないようだ。
逃げながら必死にソートフォンを打つ。さすがに逃げるのを優先なので、ソートフォンを打つのはヒルコの役目だ。
クラスメイトの皆に根唯と雄也が危険だと伝えておく。
私じゃ無理だ。だから、悪いけど皆、二人を助けて。
だが、私の願いは裏切られた。良い意味で? それとも悪い意味で?
「高梨さん、こっち!」
街に戻ってきた瞬間、茂みに引っ張り込まれる。
なんだっと思えば周茂美三留がそこに居た。
どうやら彼女は二人を助けるよりも私を助けることを優先したようだ。
「なんでこ……」
「黙って」
一瞬後、二人の男達が追って来る。
「クソ、見失った?」
「待て、あっちだ。影が残ってたぞ!」
どうやら女性の影を見付けた荒川が別方向向けて駆けて行ったようだ。
翼もそれを追って去っていった。
「よかった。ちゃんと誘導出来た」
「あ、ありがと。でも、なんで……」
「皆で話し合ってたの。一見無敵に見える根唯の妖能力も、雄也君の妖能力も、きっと破られる時が来るって、その時どうするか考えて、役割分担したんだよ。私は影しか使えないから、誤誘導させるくらいしか出来ないんだ。だから私は有伽の逃走手助け。他にも皆指定位置についてるよ。頑張って、有伽」
「美三留……」
「よし、それじゃ逃げるよ、ついて来て」
美三留に言われて彼女について行く。
壁を上手く使いながらゆっくりと確実に、こそこそと逃げて行く。
どこまで影を追い掛けて行ったのだろうか?
あるいは、今は騙されたと戻って来てる?
「クソ、何処行きやがった!?」
「見失ったのはこの辺りだ」
少し離れた場所で声が聞こえた。
あの辺りはさっきまで私達が隠れていた場所だ。
どうやら見失ったから見失う直前まで戻って探しているらしい。
「あっちだ! 女の影が」
「ホントかっ!」
そしてまた見当違いの方向に駆けて行く。
完全に影女に翻弄されていた。
翼だけなら多分気付いてなかった。
でも女性に敏感な荒川がいることで良い具合に騙されてくれている。
御蔭で私達は街を離れて学校まで戻ってこれた。
「私はここまでだよ。多分これ以上は足手まといになるから。後はよろしく」
そして学校で待っていた次のメンバーにバトンタッチ。
江西総一郎と桃井修一が私を逃す役に付く。
そしてもう一人、近藤礼治が私っぽいカツラを被って服も女学生のセーラー服で美三留と二人撹乱のために学校から外に出て行った。
影と偽の垢嘗で撹乱するらしい。
どうでもいいけど妖の近藤は見付かったらそれはそれで捕獲されるのでは?
まぁ、本人やる気だしたぶん大丈夫だろう。高梨のまねしてんじゃねぇ、とか言って翼にボコられるかもしれないけど。