迷い家を壊す者
「まぁ、俺の迷い家の中なら安全だから、とりあえずここから連絡取ったらどうだ? 電話回線繋いどくぜ」
できるのかよ!? だったら最初からしろよ。
電力使えるならテレビとかも見れるだろ。
出来れば暇な時の暇潰しとしてテレビみたいんだけど。
残念ながら彼曰く電力使うのは結構精神に来るから常時は無理らしい。
今日みたいな緊急時のみだそうなのだ。
仕方なくテレビやエアコンを諦め皆に一斉送信で下手に奴らの前に顔出さないように伝えておく。
飯草の奴は正気に戻って逃げたのだそうだ。人質に取られてなくて良かった。
皆周辺に待機してくれてはいるらしい。脱走に一役買ってくれそうだ。
可能なら一人づつ潰してくれるつもりだろう。
なので敵対者の特性で分かったモノを伝えて行く。
燭陰は名前が分かったけど能力がよくわからないから翼には出来るだけ近づかないよう皆に伝える。
これで皆無謀な特攻はしなくなるだろう。
亜梨亜とか楠葉辺りが暴走しそうで怖いけど。
とにかく、しばらくゆっくりできそうだ。
居間に上がって息を吐く。
三人でしばし寛ぐ。
できるならこのままゆったりしたいところだが……
無理だろうな。
そもそも荒川と翼ちゃんをなんとかしないと安全になるとも思えない。
そろそろ本当に潮時かもしれない。
フェリーに乗って島を……ん?
メールが届いた。
外に居る土筆からだ。
どうやらうわんと裸螺の会話を聞いて来たようで、フェリーに乗ったら海で妖能力者の襲撃を受けるらしい。
なんでも海に関する妖使いたちが手ぐすね引いて待っているのだとか。
なんだよ海にいる狼って? 海に狼なんかいる訳ないでしょ。ただ犬かきで泳いでる狼くらいならいるかもだけど。
あと七匹の鮫に七人岬? 七人シリーズはもういいよ。
とにかくフェリーに乗って脱出はかなり難しくなったようだ。
となると、島に居る奴らをなんとか撃破して安全を確保してから海の攻略に乗り出すしかないだろう。
結局海を封鎖されたようなもんだ。
私が手をこまねいていたせいで退路が塞がれてしまったらしい。
また後手に回ってしまった。
本当に座敷童子の幸運に頼ってていいのだろうか?
何かしらの手を打たれていて致命的な状況になってないか?
不安になるが打つ手は無い。
私ができることは荒魂と翼を殺すことだけだ。
翼ちゃんを、殺す……か。できるかな、私に?
「んで、このあとどうすんの?」
「そうね……どうしようか。とりあえず別の場所に出現して安全確認してから外に出て、敵の位地を確認して奇襲、かな」
「それがまぁ妥当だべなぁ」
「それじゃ土筆に連絡とって安全な場所を……」
次の瞬間だった。
迷い家が揺れる。
激しく振動する。
まるで地震でも起こったかのように。
まるで倒壊するように。
内部の者たちはただただ振動する世界で何も出来ずにただ揺れる。
なんだこれ? 何が起こった?
ちゃぶ台が揺れる。燭台が倒れる。
ありとあらゆるものが揺れ、家具が動き倒れ踊り狂う。
地震? 違う、こんなに長い訳が無い。
なんだこれは? そもそも異空間に居る迷い家が振動するとかある訳がない。
なら、なんだ? 自然に起こり得ないのなら、可能性は……攻撃!?
「雄也、適当な場所に急いで現界して!」
「わ、わか……ごふっ?」
雄……也?
突然雄也が血を吐いた。
移動したいけど振動が激し過ぎて動けない。
這うようにして根唯が雄也に近づく。
「ど、ドア、急いで……」
だが、そんな根唯と私に、雄也が絞り出すように告げ、指差した。
いち早く理解したヒルコが振動をモノともせずに粘体化して私を、そして根唯を引っ張って玄関へ。
玄関を開くと潮風が吹きこんできた。
ヒルコの御蔭で迷い家から脱出する。
砂浜に辿りつくと、今までの振動が嘘のように静まりかえっていた。
やはり揺れていたのは迷い家だけらしい。
「有伽、アレ!」
「なっ!?」
根唯が指差した先、迷い家の屋根の上。ソイツは屋根にしがみついて震えていた。
全身を震わせる女。あれは……
「【屋鳴り】だよ」
不意に聞こえた子供の声に、私達は驚き振り向く。
携帯ゲームを行いながら、面白くなさそうに告げる少年。
「初めまして高梨有伽。あと、なんかちっこいの」
「子供にちっこいとか言われたくねぇべな」
しかし、屋鳴り? あれが!?
屋鳴りとは家を揺らす怪現象だ。
他の土地は何ともないのに、屋鳴りに憑かれた家だけが物凄い揺れる、あるいはポルターガイスト現象が起こり、物品が周囲を飛び交うとも言われている。
科学的には共鳴現象とかなんとからしいんだけど。
つまり、迷い家という家属性にとってはあまりにも最悪な天敵だ。
「雄也っ」
うっすらと消え始めた迷い家に、根唯が思わず叫ぶ。
しかし、迷い家は消え去り、砂浜に倒れ、血塗れた雄也だけが取り残された。