崩壊の日
その日、私、高梨有伽はいつものように授業を受けていた。
本日は全員集合しており、空いた席は無い。
空いた席があればいつの間にか来世が座っていたものだが、今は空き椅子が一つ目立つように座席が存在しているだけだ。
東華踏歌、またの名を七人同行。
私達が殺した。空いた席には誰も座っていない。
もう一人、踏歌が殺した屋良美織の席には葛之葉が座ってるけど。
ふと気付けば来世が座っているような錯覚を覚えてしまう。
あいつの狙い通りに死んでから気になり始めているのがなんともムカつくのだが、それでもやっぱり、あいつはあいつで私にとって大切な存在になってしまっていたんだろう。
真奈香の事だけでも辛いのに、大変な傷を付けてくれたものである。
授業を終えて放課後。
最近日課になってしまったアンサー君を行う。
最初こそどうでもいい答えが返って来ていたが、やり方を覚えてからはそれなりに聞けている。
例えば、私の敵は? と聞くと、ラボやらグレネーダーとかではなく妖使いと一括りにされてしまう。
だが、聞きたい事を限定すればちゃんと教えてくれる。
私に敵意を持つ人物、組織は? と尋ねれば、ラボ、グレネーダーといった名前が上がる。
龍華の名前が上がらなかったのでまだ彼女は私を敵認定はしていないのだろう。あるいはこの世界に居ないとか? それはありえないか。殺しても死なないし。
それにしても、敵組織としてなんか沢山名前が上がったんだけど、なんだよ妖万歳とか全ての妖集め隊とか。敵らしいから出会ったら即殺するけども。
信頼出来る仲間と聞けば、懐かしい名前も出て来たものの、グレネーダーなのでほぼ確実に敵対する。
相手から信頼があると分かるとちょっとやりづらいな。出来れば会いたくない物だ。
「さて、高梨さん、今日は何聞く?」
一つ目の質問を終えた大河が私にガラケーを手渡す。
「そうね……今、この島の中で私に敵意、殺意を持っている存在は?」
『荒川竜司、鳴開月夜、千歳ジョーイ……』
誰だよ?
『……志倉翼』
その言葉に、一瞬思考が停止した。
嘘でしょ? ねぇ、今の、聞き間違い……
いや、違う。あいつなら来てても不思議じゃない。
「……もう、一つの質問は……」
返って来た言葉に焦りを覚える。
本当にそれでいいのか? 大丈夫なのか?
いや、アンサー君自体はかなり正確だ。ここは信じるに足るのだろう。
大河に代わって相手の質問に応えて貰う。
やるべきことは分かった。そして次の敵も。
まさかこんなに早く次が来るとは思わなかった。しかも、あいつまで……
放課後、大河を帰した私は教室に一人残る。
天井からやって来る土筆を待っていたのだ。
フェリー乗り場で張っていた彼女は直ぐに見付けたらしく、翼達四人組の出現を私に教えてくれた。
「ついに、来ましたわね」
「予想してたの?」
「ラボと繋がってる以上そろそろ相手の弱点を攻めてくると思ってましたの。志倉翼は有伽様をグレネーダーに誘った人物。有伽様にとってもかなりやりにくい存在だろう、と思ったのでしょうね」
「どんな感じだった?」
「そうですわね。一人は野性味溢れる若頭といった男ですわ。アレは女ったらしですわね。早速宿取ったら女性探しに出掛けて行こうとして連れの女性に怒られてましたわね。本人気にしてなかったようですが」
「ド変態野郎か」
「それから怒っていましたけど大人しい感じの女性、ゲーム好きの子供。この面子がパーティーを組んでるようですわ。会話から若頭さんが志倉翼とバディを組んだようですの」
翼は女好きの男と共に、か。多分私に向けて放たれた刺客だろう。
もう二人の方はなんだろう? 翼たちが私を殺しやすいようにっていうサポートメンバーかな?
「……なんか、あの二人見たことあるんですよね。どこだったかしら?」
土筆も知ってるらしい。多分だけど一班なんじゃないかと言っている。
つまり、妖研究所の一班がついに動き出したってことらしい。
これを撃退すれば激昂した九尾が来ると思われるのでそれを討ち取れば実質一班は壊滅するそうだ。
そうなればこちらに有利。
「で、どういたしますの?」
「ん。根唯には先に帰ってるように伝えてある。私は一度襲われてから迷い家に逃げ込む」
「どういうことですの?」
「なんかアンサー君に言われたのよ。私が今回の闘いで生き延る最善の手はどう行動すればいい? ってね」
「なるほど。で、どうするんですの?」
一度逃げ込んだ後はひたすら逃げて追い付かれたら全力で戦え。
一瞬なんだそれ? と思わず言いたくなったのだけど、こればっかりはアンサー君の答え通りに進めば良いだけのことだ。
まずはここから出るとしよう。
おそらくその辺りで襲われる筈だ。
翼……来るっていうなら本気で行くよ? 命賭ける準備はしてる?
こっちはとっくに、出来てるよ?