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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 屋鳴り
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個人遠征

 その日、本部からの呼び出しを受けていた隊員が帰って来るということで皆が楽しそうに話し合っていた。

 ここは高港市警察署、妖専用特別対策殲滅課抹殺対応種処理係のメンバーが集まる会議室である。

 本日ここに集まっているのは、人数が多くなったためにロ型に設置された机にパイプいすを持って来て、西側に徳田佳夕奈、白滝羅護、東側に前田愛、斑眼稲穂、南に徳田魁人、琴村騨雄、北の中央にポニーテールの少女が一人座っていた。


 皆仲が良いメンバーなのと女性陣が多いので話に華が咲く。

 基本佳夕奈が殆ど話をしているだけだが、羅護や稲穂が合いの手を入れているので話に華が咲いているのだ。決して佳夕奈の独り舞台ではない。


「おい龍華、あんたここに来たいっつったから連れて来たが本当に大丈夫なんだよなぁ?」


「仔細ない。しかし言葉遣いが悪いぞ琴村騨雄」


 本来室長格である小林草次や黛真由の座る場所に当然のように座っている少女、聖龍華に尋ねる騨雄。その言葉遣いに眉根を寄せて告げる龍華。

 普段はそこまで口調については言わないのだが、騨雄が上司にすらこの態度らしいのでさすがに窘めているらしい。残念ながら騨雄は聞く気がないようだ。


「でも、久しぶりね龍華。しばらく見なかったけど、なんでまた?」


「少し遠くに行っておってな。帰って来た時には随分と様変わりしていて驚いたぞ。お前がいるだけでも少し落ち付けた、かな」


「そう。欲しいのは有伽の状況? お姉ちゃんに聞けば教えてくれると思うけど?」


「取り乱していないと思ったが、その為か」


「ん、知ってた。でも誰にも話してない。誰が草かわからないから」


「草……かぁ、本当に翼先輩が草なんですか?」


 未だに疑っているのは徳田魁人。

 しかし、志倉翼がスパイであることは確かだ。

 龍華自身がソレは理解している。


「それはまぁ、どうでもいい。今回問題なのは既に有伽に対してラボが動いている事だ。そろそろ逃げ場がなくなるのではないかと思ってな」


「でも、私達は高港市から出られないんだし、どうすればいいんです?」


「さすがに夜行さんで見回るには遠すぎ」


「どうもせん」


 そもそもここから自分たちが移動すれば何かしら監視が付く。それが有伽の元へ向えば致命的に追い詰める結果になりかねない。


「お前達がやるべきことはこの地に戻って来た時に迎え入れる下地を作っておくことだ」


「戻って来た時って……戻ってくんのかよ?」


「さてな。実情限りなく低いとしか言いようは無い」


「ならダメじゃねぇか」


 下地を作るくらいしかやることは無い。しかし、戻ってくる可能性は低い。


「高梨有伽は……おや」


 話を続けようとした龍華だったが、途中で言葉を止める。

 一瞬遅れ、扉が開かれた。


「皆すまない、少し遅れ……げっ」


 やって来たのは小林草次、黛真由、志倉翼の三名だ。


「むぅ、人の顔を見てげっとはなんだ小林草次」


「彷徨える不死者か。なぜまた現れた? 隊長は死んだし、高梨有伽はここには居ないぞ」


「居ないから情報を聞きに来たのだが?」


 真ん中からは退く気がなさそうなので、龍華を挟んで左に草次、右に真由が座る。

 翼は草次の隣に立つことにしたようだ。

 残念ながら予備のパイプいすが見当たらなかったのだろう。


 ただ、皆が無言で翼の左腕を見る。

 そこだけが、今までの翼と全く違っていた。

 異形の腕。赤く、太く、長く脈打つバケモノの腕。


「つ、翼先輩、それ、は?」


「ああ、今回の指令のために別の妖能力を貰った。テケテケだけじゃ殺せねぇからな」


 迷いなく、彼は言う。

 誰を殺すかなどは一言も言わなかったが、誰のために妖能力を貰ったのかは皆が理解した。


「た、高梨先輩を、殺しに行くんですか……」


 皆が理解したが押し黙る。その筈だった。

 どうしても我慢できなくて魁人が尋ねる。


「ああ。新しい能力名は【燭陰】だ。あと、あいつはもう先輩じゃねぇ」


 妖能力を聞いた瞬間、龍華が立ち上がった。


「正気か貴様、そんなモノを腕に宿したのか!?」


「リスクくらいは知ってる。だがよぉ。暴走してる高梨止めるにゃこれくらいしなきゃダメだろ」


「貴様……なぜそこまで」


「……っつぅ訳で、俺は今日から転勤だ。代わりに明日から小金川総指令官代理が直接勧誘した人が新人として来る予定だ。皆、多分驚くぞ。よろしく頼む。んじゃ、俺は用意があるんでこの辺で」


 言いたいことだけ告げて、翼が去っていく。

 どうやら直ぐに部屋を出るため椅子に座らなかったようだ。

 翼がいなくなるのを待って、龍華が視線を草次に向けた。


「小林草次。どうなっている?」


「僕も今知ったんだ。ちょっと驚いてる。そして、十中八九次に来る新人はスパイだ」


「ん。小金川さんが勧誘したなら確実」


 真由の言葉に皆が困った顔をする。

 折角スパイと思われる翼がいなくなるのに、次のスパイが来るのだ。しかも皆がスパイだと分かってしまっている。


「新人研修には三日かける。それと、支部長から男子は必ず固まらず女性陣と一緒に組ませること、新人と二人きりには絶対にするな。だそうだ。なので班分けを発表する。初日の班は徳田佳夕奈、徳田魁人、斑眼稲穂、二日目は白滝羅護、前田愛、琴村騨雄。最終日は僕と真由で何とかしてみる。しかし、男性に対して気を付けろとはどういうことだろうか?」


「気になるし歯止め役として私も一緒してやろう」


 何故か龍華も乗り気なようで、三日全ての監視役に名乗りを上げるのだった。

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