エピローグ・愛しき者への鎮魂歌
「……そう」
抑揚のない声で、私は呟いた。
来世が死んだ後日、落ち付きを取り戻した私は、大河和馬に頼んでアンサー君を使い、来世がアンサー君から何を聞いていたのかを聞いていた。
正直、あの時疑問に思ったりしていれば、あるいは別の未来もあったかもしれない。
彼が聞いたのは高梨有伽を助ける方法。
どうすれば彼女を死なさずに済むか。
齎された言葉は簡潔だった。
お気に入りの場所にデートに誘い、代わりに死ねばいい。
それだけだ。それだけで高梨有伽が死なずに済むそうだ。
ふざけてやがる。
私はきっと、本当なら三味長老に殺されていたんだろう。
でも、その未来は訪れなかった。
その未来を教えられた来世が自分の命を代わりに差し出したから。
彼の妖能力、謳う骸骨の呪いが発動し、三味長老が死んだから。
結局、どうあっても私と来世が付き合う未来は無かったらしい。
……なかったんだ。
例え、今更付き合えば良かったかなとか、好きになったのだとしても、もう……遅い。
もう居ないんだ。
大切だと、失いたくないと気付いた時には既に失った後なのだから。
だから、私は、もう一つの問いをアンサー君に尋ねていた。
私は、この先どうしたらいい? って。
アンサー君は一瞬押し黙る。
でも、答えを告げてくれた。
それがあまりにも酷い道だといいながら。
それでも行くのなら、道の先に、約束の大地が待っていると。
ならば、私は旅人だ。
いつか辿りつく幸福に成れる場所を探し求め、復讐心を抱き彷徨い続ける旅人だ。
どれ程辛く厳しい旅路だとしても、どれ程の血が流れる場所だとしても。
たとえ、道半ばで息絶える運命だとしても……
そろそろ、休息を終わりにしよう。
歩かなければ。
先へと進まなければ。
一歩でも、踏み出して歩かねば。
たとえ……この旅路の果てが、手に入れた全てを失う道だとしても……
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……
…………
………………
そこは、暗い部屋だった。
部屋の中心には淡いエメラルドグリーンに輝く筒。そこに、彼は入れられていた。
ピィーと機械音が響く。
ガシュンと透明なガラス部分の扉が開き、筒から彼と、容器に満たされていたエメラルドグリーンの液体が流れていく。
筒から出た彼に、しわがれた声が掛かる。
「これで、お主の身体に新たな妖能力が宿った」
「げほっ、はぁ……実感はねぇが、これが?」
「うむ。しかし、本当に良かったのか? 幾ら小金川室長代理の命令とはいえ……」
「アイツを止めるにも殺すにも、俺の力じゃダメなんだ。隊長も上下も死んじまって、暴走してるアイツを止めてやるには、俺も相応の力がねぇと」
彼が技術者に告げると、そうか。とだけ技術者は告げる。
遅れ、部屋にやって来た男達が服を持って来る。
彼はそこでようやく自分が何も着ていないことに気付く。
「しかし、こりゃ普通の生活も大変そうだな」
「仕方あるまい。まだ試験段階でしかないのだし。それは本来日本に存在する妖能力ではない、神の如き力を持った外国の妖だ」
腕を持ち上げる。
その腕は、赤く、まさに人外のように、太く、硬く、長く、赤銅のような光沢を持っていた。
「待ってろよ高梨……隊長や上下の代わりに、俺がお前に引導渡してやる」
彼……志倉翼は決意に満ちた瞳を向ける。
遥か彼方、海を越えた島に居ると連絡を受けた、高梨有伽を殺すために――――