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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 謳う骸骨
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重なる姿

「よぉぅ元室長ぉ」


 ねばつくような嫌な声で、そいつは銃を私に向けた。

 直ぐ隣の来世が困ったような顔をする。

 俺が騙し打ちしようとした訳じゃないぞ? とこちらに言い訳するような顔だった。


「ずいぶんとまぁアツアツじゃぁねぇかぁ? オイ」


「そう見えるなら嬉しいね。できるならこのまま有伽と俺の純愛を応援してくれるとうれしいんだが?」


「そりゃぁ無理ってもんですわぁ。俺もなぁ、部下を軒並み殺されちまってんですよぉ、そりゃぁねぇ、あいつらぁどうしょうもねぇクソ共さ、殺人、誘拐、レイプに虐殺。行きつくとこまで行っちまったクソ共さぁんでもよぉ。肩ぁ並べて闘った戦友だ」


 銃を構え、怒りに染まった顔で私を睨む三味長老。

 デバガメしていた皆が動き出そうとするが、既に察していた彼は大きく息を吸い込む。

 次の瞬間、声にならない音波が周囲に響き渡った。


 デバガメ軍団がへなへなと倒れて行く。

 大丈夫かと思ったが今は彼らに駆け寄り安否を気遣うような余裕はない。

 何しろ目の前に私に殺意を向けてる男が銃口構えているのだから。


「安心しなぁ、俺としては殺してもまぁったく問題ねぇんだけどよぉ、下手に殺す気で撃つとウチの元室長様を殺しちまうからなぁ。さすがにソレはヤベェだろぉ」


 あんたたちの自己都合じゃないか。

 クソ、今の攻撃ヒルコが耳塞いでくれてても結構効いた。

 正直立ってるだけでもキツいくらいに頭がぐわんぐわんしている。


 おそらくだけど皆も同じ症状だろう。

 音波で脳を揺さぶられた状態だ。

 さすがに今この状況でこの状態異常はキツい。


「辛ぇだろぉ。わかるぜぇ。でもざぁんねん。俺から逃げる方法はもうてめぇにゃぁ残っちゃいねぇ。この能力使うとよぉ、世間様にまで迷惑かかっちまうだろぉ? だぁから俺もさすがになぁ、自重してたんだわ。ここでならよぉ。そんなこたぁ考える必要ぁねぇよなぁ?」


 にちゃぁっと笑みを浮かべる三味長老。

 逃げるにしても確かにアイツの言う通り、私だけなら逃げ切るのは不可能だ。

 ヒルコ、どう? 行ける?


 でも、私の想い空しく、ヒルコもまた、振動に全身を揺さぶられて私に張り付くので精いっぱいらしい。

 出来るだけ銃弾を止めてみるとは言ってるけど、連射されれば突破される。

 嘘だろ、まさかの万事休す?


「ひゃはは、いいねぇその顔」


「女の悔しそうな顔見て笑み浮かべるとかクソ野郎ね」


「褒め言葉だねぇ。俺は自分の下衆加減は自覚してんでねぇ。んでも、下衆にも下衆の矜持ってぇのがあるんだわ」


 ガサリ、叢が揺れ、楠葉が転がり出る。

 でもそれだけだ。身体が思うように動かないらしく悔しげに三味長老を睨む。

 遅れ、葛之葉が、小雪が這い出ようとしてくるが、動きはあまりにも鈍い。


「げひゃひゃひゃひゃ! いいねぇ、思われてるねぇ逃走者! テメェだって下衆な殺人者だろぉが。なぁんでこんなに慕われてんだぁ?」


「さぁね。私が嫌がっても付いてくるのよ。日頃の行いのせいかしらね」


「羨ましいねぇ。でぇもぉ、残念だねぇ、ここであんたは終わり。死体はラボに回収されて全て終わりだ」


 その前に黴の増殖で島が壊滅的被害受けるんじゃないか? そもそもこいつ私の中に黴が存在すること聞かされてないとか?

 可能性はあるな。

 じゃあそこの所せめてみるか?


「ソレは良いけど三味長老?」


「あぁん? 命乞いかぁ? あいにくテメェが抵抗するのはわかってっから殺させて貰うがなぁ」


「いや、そもそも銃で撃ち殺すってことはさ、血塗れになるんでしょ。私を撃ったらどうなるか、知らないの?」


「あぁん? テメェが血溜まりに沈むだけだろうぉが」


「あんた、黴知らないの?」


「はぁ? 知るかバァカ! 時間稼ぎはもう充分だろぉ、そろそろ死んどけぇ」


 引き金に手を掛ける。

 ヤバい、黴について説明する時間もない。

 このまま殺されたら島を巻き込んだ無理心中になってしまう。


「死になァ」


 マズ……

 引き金が引かれる。

 無数の銃撃が一瞬で轟いた。

 絶え間なく打ち込まれる銃弾に、穿たれた肉が踊る、踊る、踊る。

 その姿を、私はスローモーションで見つめていた。


 何が起こったのか分からなくて、目を見開いて、必死に思考を回転させる。

 でも、間に合わない。

 思考が空転する。

 この光景は、あの、光景が、被る、被る、被る…… 

 脳内にちらつく一人の少女。

 微笑みながら私を見つめ、肉の波に飲まれて行く。


 ああ、また、だ。

 また、私を庇って一人……逝ってしまう。

 突き飛ばされた私はただ見つめる。


 目を見開き驚いて。

 なぜ、あんたがこんなことしたのと疑問を覚え。

 真奈香と重なるように微笑む彼を、ただ、見つめる。


 私を庇い、微笑みながら銃弾に打ち抜かれた、葛城来世の姿を……

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