夕日沈む場所へ
静寂の森、心地よい潮風。
踏みしめる枯葉、草木香る森の匂い。
夕焼けに染まる日差しを浴び、森が黄昏色に染まっている。
私達はゆっくりと森を歩き、そして、森が開けた場所へと辿りつく。
「ここ、は……」
森はなくなった。
代わりに洗われたのは岩地。
否、そこは、切り立った崖、潮風吹き抜ける海、まさに岬というに相応しい場所だった。
なんだろう、サスペンス者で犯人が暴かれる時に良く出てくる場所みたいだぞ。
もしかして私追い詰められて殺される犯人役か来世?
「凄いだろ有伽。この岬、夕日が沈む姿が凄く綺麗なんだ」
まぁ、確かに綺麗だけども。
崖の上に出てるせいでなんか海に落下しそうってのが一番ありうるんだけど。
夕日楽しめるような心境でもないし。
「丁度時刻的にもほら、夕日が沈もうとしてるし」
「そう、だね」
ほら座って、と崖っぷちに案内される私。
これ、含みが無くても近づきたくないんだけど。
下手すりゃ私そのまま海にダイブインだぞ?
それでもまぁ、生存率はあるだろってことで覚悟して来世の隣に座る。
丁度崖の上から海と水平線に沈む夕日が見れる場所だ。
水面に揺らめくオレンジ色の太陽が沈んで行く。
それにしても、この島にも自殺の名所っぽい場所あったんだな。
森を抜けないと出れない場所になってる。
ここ以外は砂浜がかなり下に見える。砂浜からも崖になっているようだ。なんでこんな場所が出来たのか不思議でならないな。
聞いてみたら誰か知ってるかも、伝承と共に美園当たりが教えてくれそうだ。
三角座りしてじぃっと沈む夕日を見つめる。
太陽直視すると目がやられるのだが、沈みかけた太陽見るのは普通にできるんだよなぁ、なんでだ? 眩しさもそこまで無いと言うか、ああ、もう沈み切る。
「始まりがあれば終わりもある。夕日が沈んで昼が終わった。ここからは夜の時間さ」
「で、どうするの?」
「こうする」
姿勢を崩し、私に近づいてくる来世。
押し出されるか? と思えば、頬に何か触れた。
いや、頬というか、ヒルコに?
ヒルコが悲鳴あげそうになっていたけど、まぁ、諦めろ。
というか、なんかごめん。
来世の奴何して来るかと思えばキスして来やがった。
無言で立ち上がる来世。
何なんだよ一体?
あ、でも、私が好きだからっていうのは一貫してるのか。
もう見せたい場所への案内は終わったらしい。
私が立ち上がると、来世はこちらに振り向き、真剣な目で私を射抜く。
不覚にもドキッとしたのは内緒だ。さすがに敵相手に現は抜かさない。
「こんな所に連れて来て何がしたいんだって思ってるんだろ」
「まぁ、否定はしないよ」
「酷いなぁ、俺は初めから何がしたいかは告げてるんだよ」
「そうだっけ? 観察するとか言ってなかった?」
「揚げ足とらないでほしいな。俺は初めから有伽を恋人にしたいって言ってるじゃん」
そう言って、彼はゆっくりと私に近づく。
後少し近づけば顔がくっつく、それくらいに近づいて、真剣な顔で言う。
「答えはいらない。有伽……好きだ。君を、愛してる」
……は?
いきなりの告白に頭が真っ白になった。
だから、次に来世が起こした行動に対応できなかった。
ぎゅっと、身体が抱きしめられる。
何が起こったのか理解できないまま、されるがままに温かいものに包まれる感覚。
ただただ呆然と、私はそこに立ち続ける。
抱擁は一瞬だった。でも、凄く長い時間だった気もする。
来世から離れていく。
待って、思わず言いそうになる。
「この思いは変わらない。俺は君が好きだ。例え君がどんな人であったとしても、手の届かない場所に行ったとしても、どこに居ても、いつでも、いつまでも、俺は君を愛し続ける。だから……俺の事を、覚えておいてほしい」
「来……世?」
「さぁ、帰ろう有伽」
それだけ言って、こちらに背を向ける。
今、顔が赤かった? 恥ずかし過ぎて私を直視できないとか?
それは、よかった。
こ、こっちも、その、さすがに、今顔を見られるのは困る。
さ、さすがにここまで熱烈に告白されたら、免疫の無い私じゃ見れた顔じゃなくなってしまう。
う、ぅ、敵なのに、敵の癖に……なんでこいつはここまで押してくんのよ。
なんで……こうなる前に会いに来なかったんだよ。
真奈香がいる時に告白されてたら、絶対……
その後、私は何をどうしたのか、来世に手を引かれ、まるで乙女みたいに歩いていた。
もう、警戒とか何か出来る状態じゃなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。来世に惚れる訳ないのに、なんで、意識しちゃうの、今、そんな状況じゃないだろ私。
こいつは、敵で、私は逃亡者で、だから……
そんな私の耳が、機械的な音を拾ったのは偶然だった。カチリと、何か嫌な音がしたのだ。
はっと気付いて飛び退く。
ヒルコが反応して来世ごと私の身体を逃した。
チュインと地面を鉄の弾が跳ねる。
「ああクソ、外しちまったァ」
森が途切れ、郊外が見えるその場所に、男が一人……待っていた。