デバガメ注意報
ファミレスに入る。
結局皆揃ってファミレスに集合してしまっている。
なんでこのファミレスは学生しかいないんだ。
しかも今日は安心院と觀月が店員の恰好してるし。
アルバイトじゃなくてボランティアだと。
私に習って無償で手伝っているらしい。
これはこれで社会勉強にもなるってことで楽しんでやっているらしい。
いやいややってるんじゃないなら私は何も言う必要はないな。
でも觀月、今の注文、私パンケーキ頼んだんだけど。来たのショートケーキなんだけど?
「まぁ、いっか」
「ぎゃぁぁ!? 待って、待って高梨さん、それ私のっ」
嘆き悲しむ安心院さん。一瞬口に入れようとして止まる。
成る程、安心院さんのを間違えてこっち持って来たか。
「って、なんで止めたのに食べたっ!?」
「私の前に来たんだから食べるでしょ。でも私が頼んだのはホットケーキだから。間違えた店員さんが悪いからこっちの金は払わないよ」
「おのれクレーマーめぇっ!」
「接客業はしっかりとしないと普通の客もクレーマーに早変わり。失敗したらどう取りかえすか、社会勉強と思うが良い」
「ひ、酷い、私のショートケーキがぁ!?」
「な、なんかごめん」
「いいわよ、ホットケーキ私が食べるし」
「店員さーん、ホットケーキまだぁ? こっちゃ金払ってんだぞー」
「おのれ高梨ぃーっ」
といってもショートケーキ食べたの一口だけなんだから。
血涙流す勢いの安心院にホットケーキを一口、口へと放りこんでやる。
「んぐむ」
「接客する場合はクレーマーがいることにも注意しなさい。ほら、さっさと入れ替える」
「くぅ、店員の苦労が分かるこの悔しさ。でもホットケーキおいしい」
ホットケーキとショートケーキを入れ替えショートケーキを自分の座席へと持って行く安心院。
そんな安心院に御免っと手を合わせて謝る觀月。
ちなみに本来の店員さんはまさかのクレームにあわあわしていて接客どころじゃなくなっていた。
でも、厨房のおっさんとおばさん。肝太いと言うか、少しは娘さん手伝ってやれよ。
全く様子すら見に来ないし、食事用意してトレーに乗せる際に娘の状況見てるだろうに。
なんていうか、娘が困ってる姿見てむしろ楽しんでる気がするのは気のせいか?
食事を終えた私と来世は二人で歩きだす。他の面子は何か知んないけど二人でどうぞーと送り出されてしまったのだ。あいつらなんか怪しいな。
もしかしてだけど後ろから付いて来る気か?
ヒルコ、どうせだから誰か来ないか見といてくれる?
仕方なく来世と二人でファミレスから出る。
案の定付いて来たよ阿呆共。
他にすること無いのかよ。
「いやー、バレバレの追跡だね」
「デバガメっつーのよアレは」
「平和でいいじゃないか。さて、どこか行きたい所はあるかい?」
「どこでもいいけど?」
「おっけ。いい場所見付けたんだ。一度有伽を連れて行きたいなって思ってた場所なんだけど、来てくれるかい?」
「行くだけは行ってあげる」
来世について行く。
もしかしたらそこに三味長老がいるのだろうか?
いや、バレバレのデバガメどもがいる状況で来世がアホな事をするとも思えないけど。
これまで敵ではないが味方でもない状態を貫いていた彼がその地位を捨てて私を攻撃して来るとも思えないけど。いや、そう私に思わせることこそがこいつの狙いである可能性が高い。気を許した瞬間殺しに掛かって来ることだってありうるのだから。
さぁ、どう出る来世? とりあえず、警戒はヒルコに任せ、私は無警戒で付いて行ってみるよ? 警戒感を感じない私に対して、どう出る来世?
街を出て郊外へ。
だんだんと人気のない方へと向かっている。
そもそもこの島殆ど出歩いてる人が見当たらないけどね。
砂浜とかには結構見るし、漁港の方は人が沢山いるんだけど。
森の中を二人で歩く。
後ろからストーカーどもが追って来る。
森林デートいいね。とか来世が歌歌いだしたけど、後ろのストーカー共が気になり過ぎてどうでもよかった。
というか来世、なんで自分が死んで天国行った歌歌ってんの?
「歌は上手いけどなんというか……場に合わない」
「そう? 俺歌うの好きなんだよね。でも最近の曲とかはあんま興味無いんだ」
楽しげに歌いながら歩く来世。
ゆっくりと、ゆったりと、森の中を二人きり歩く。
静かな森、鳥の鳴き声、木々のざわめき。心地よい風。
サクサクと足元で音を鳴らす枯葉たち。
その歌やっぱり合ってないよ。天国いいとこって行った事あるのか?
というか、もしかしてその歌昔に誰かが作ったのか?
凄い曲作る人居るんだな。
「そろそろ登るよ有伽」
「登る?」
確かに、次第急勾配になっている。一体どこに向かう気だ来世?