学園攻防戦6
「すまん、逃がしてもうた」
トイレから戻って来るなり根唯が謝って来た。
話を詳しく聞いてみると、どうやら敵の隊長格らしい男を逃がしてしまったらしい。
兵士たちはまだ普通に進軍してきているので相手を捜索する訳にも行かないし、逃げたとしても大坊主と塵塚怪王、そして闇子さんの目はなかなか逃れられないだろう。
とりあえず今は放置だ。
今重要なのは攻め込んできている奴らがついに三階に到達した。
つまりここに来る可能性が出て来たということになる。
高足柚葉(面霊気)、皆木暮阿(呉葉)の二人が手伝ってくれるのだが。この二人が出来ることといえば面を廊下に撒き散らすことと、妖力で邪魔をするくらいだ。
足止めとしては充分なのだが、流石に私一人でこれらを相手取るのはなかなか難しい。
一応、衝立狸様が衝立作ってくれるけどあまり防壁にはならないだろう。
後は泥田坊使って防御して貰いながら迎撃して行くしかないだろう。
ちまちまやるのはあまり好きじゃないんだが。
仕方ない、やるしかないな。
暮阿の能力で兵士達が一瞬止まる。
柚葉の仮面がその兵士に取りつき、兵士同士の打ち合いが始まる。
それでも、前に一度この状況になっていただけに彼らの反応は速い。
即座に仮面を銃の柄で叩き壊し仲間を助ける。
だが、その為に生まれてしまう隙までは隠しようがなかった。
衝立の隙間を縫って舌に取り付けられたナイフが喉に突き刺さる。
悲鳴すら上げられず一人、また一人と倒れて行く。
とっさにナイフに視線を向けるが、ソレを好機と面が顔に張り付いて来る。
妖力で動きも一瞬止められ、出来た隙にまた一人死んでいく。
意外とよい働きをしてくれる柚葉と暮阿に心の中でお礼を告げて、有伽とヒルコが共同で一人づつ確実に息の根を止めて行く。
さすがに兵士達も焦りだすが、その頃にはもう片手で数えられる人数に減っていたため逃げることすら無謀であった。
ある者は同士打ちで倒れ、ある者は喉を切り裂かれ、ある者は動きを止められ、ヒルコの七枝刀に撃破される。
「クソ、全滅です隊長! 隊長……?」
思わず後ろを振り向き指示を仰ごうとした兵士。しかし隊長さんはそこにいることは無く、何もいない通路には衝立しかなかった。
「馬鹿な、隊長、死ん……」
はっと彼は背後に死が迫っていることに気付いた。
ゆっくりと顔を向けると、そこには紫色に煌めくナイフが一つ。
ひたりと頬に冷たい刃が触れた。
「あ、あぁ……」
「これで、終わり……」
血飛沫が舞った。
一人の男が膝から崩れ、後ろへと倒れる。
どうやら後続部隊もほぼ倒せたようだ。
「連絡、学内の敵は始末完了。隊長格だけ逃走」
『こちら屋上、学内から脱出した一人を発見。追おうとしたが残存勢力の抵抗で無理でした』
『残存兵力は泥田坊が倒してたぞ。残念ながら逃げた奴、隊長さんだっけ? は取り逃がしたけど』
隊長格だし、多分三味長老だよね。
アイツだけ逃げたか。
「よっす、どうなった?」
トイレから変なのが現れた。
来世である。
なんでお前全部終わってから来てんの?
「よし。最後の敵だな」
「待て待て待て。俺、チガウ、テキジャナイヨ」
なんでそこでカタコトになるんだ。
「まぁ、落ち付けって。俺はさっきまでうわんさんと連絡取ってたの。一応今の所本部に動きは無いみたいだよ、今ってどんな感じ? 三味長老どうなった? 神隠しは?」
「神隠し死亡、三味長老敵前逃亡、捕縛部隊全滅、ってところかな」
「え? 鮮やかすぎね?」
「結構皆の能力がハマった感じ。ただ、学校が血塗れになったわね」
「わーお。後始末頼まれてる裸螺ちゃんとノウマくんが泣いちゃうよ」
知るか。勝手に泣いてやがれ。
「それで、何しに来たの?」
「危険無くなったみたいだからまた監視役再開」
「チッ、一緒に逃げ帰ってればよかったのに」
「ひどいっ!?」
大仰に告げる来世。
近くにいた土筆に抱き付き有伽がイジメるんだよーとかすり寄っていた。
当然ながら止めなさいキモい。と言われながらグーで引き離されていた。
女の子に抱きつくからー。馬鹿なのか? 確信犯か? とりあえずその場にいた女性陣、主に暮阿から攻撃されてボロボロにされていた。
敵影が無くなったことで江西が衝立撤去したので皆が徐々に私の元へと集まり始めていたのである。
御蔭でいち早くやって来た暮阿と柚葉が土筆に抱きついていた来世を見付けて、柚葉はあらあらと口元を隠して楽しげに笑い、暮阿は楽しそうに土筆と共に来世迎撃を始めたのである。
その後、連絡聞き付けやって来た縷々乃と楠葉が楽しそうだからと参戦し、いつの間にか来世がボロ雑巾になってトイレの床に打ち捨てられたのであった。ざまぁ。