放課後の遊び方
ここ一週間、基本根唯と踏歌が一緒に居る。
とくに放課後はいつもだ。
梃は軽音部があるのでそちらに向かうし、縷々乃は紫乃と一緒にトイレ会議だ。闇子さんの妖を持つ小峠紫乃と花子さんの妖を持つ渡嘉敷縷々乃はトイレに出る妖使いという仲間からトイレクラブという部活を作り、トイレで何やらやっているらしいのだ。
怪しいことこの上ない部活なのだが、同好会は自由に立ちあげられるので先生たちも何も出来ないようだ。せいぜい女性の先生がトイレの見回りを行い変なことしてないか調べるくらいである。
この前は赤いちゃんちゃんこの作り方で白熱した討論を行っていたらしい。どうでもいい話だねこれ。
授業自体は勉強になる。多分有伽にとっては一年前に習った事なので大して意味のない授業だろう。記憶取り戻したら二年の方に移行した方が良いかもしれない。それは有伽自身と相談である。
さすがに今は根唯達のいる一年の方が何かと都合が良いので彼女達と同じクラスにさせて貰っている。
「さぁ、今日も放課後がやってきたよっ」
「放課後宇宙大戦争が始まるかも」
意味不明なことを言いながら踏歌と共にやって来たのは相生美園。コックリさんの妖使いを持つ彼女はセミロングの髪に眠たげな眼で近寄ってくると、びびっと電波を受け取ったように両手を上げる。
「本日は我も暇なのである。暇人暇潰しクラブに仮入部なのかもっ」
なぜか大仰に告げた美薗。背後に稲妻落ちたくらいの勢いである。
さすがに踏歌も苦笑いだ。
「あはは、ちょっと変わってるけど悪い人じゃないからみそのんも一緒に時間潰ししてもいいかな?」
「問題無いわ」
ゆっくりと席を立つ。
そうこうしていると雄也に別れを告げた根唯がやってきた。
根唯が日直でない日はだいたい雄也を送り出すのが根唯の日課である。周囲からは世話焼き妻だとか言われてるんだけど本人は自分に自身が無いのであたしなんか妻じゃなかよっと否定しているのだが、皆微笑ましい顔で見つめている。
多分だけどあの二人が付き合いそうで付き合ってないことは皆が知ってるんだろう。さりげなく応援してるのも何人かいるみたいだし、今は野球にしか興味無い雄也次第なんだろうな。頑張れ根唯。ワタシも応援してるよっ。
「あれ? 今日は美園さんもだべか?」
「私がいると不都合かも? 酷い奴ね根唯は」
「ち、ちちち、違うべや!? 別に居てもええんだ。でも珍しいなって話しでっ」
皆して取り乱す根唯を笑う。
この子は本当に動きが面白いな。
なんか可愛らしいんだよね。
頑張ってる姿を応援したくなる娘である。
「で、今日はどうすっぺ?」
「ん、せっかくだからお山登らない? ほら、神社あるとこ」
「なんだっけ、おこぼれ山?」
「何それ?」
ワタシは初耳だったので尋ねる。どうやらおこぼれ山とやらに一番詳しいのは美園のようだ。
「むかしむかしあるところに音兵衛という男がおったそうかも」
その語尾に付く【かも】、はなんなんだろう?
「音兵衛は必死に働く働き者だったが、嫁も無く、お金もなく、貧乏な暮らしをしていたそうかも」
正直者馬鹿を見るって奴だろうか? 誠実に生きたからこそ出会いもなく金もなかったと?
「ある時村を大雨が襲い、音兵衛の家が流されてしまったかも」
「あらら、可哀想に」
「家を失ってしまった音兵衛は近くの山にあった神社に寝泊まりすることにしたかも」
家が無かったから神社暮らしって、罰あたりじゃない?
「すると本堂で寝た音兵衛に不思議な事が起こったかも。夢の中でお釈迦様が出て来てその手から零れた雫を音兵衛が受け取った夢を見たかも」
それは凄い。吉祥の夢って奴だね。
「ふと目覚めると直ぐ隣に綺麗な女性が寝ていて、驚く音兵衛に私と暮らしてくれませんか、と告げたそうかも。音兵衛は驚きながらも頷き、女性と共に新しい家で幸せに暮らしたかも」
うん、なんだそれ?
とくに女性どっから現れた? そしてなぜソレをそのまま受け入れた?
女もおかしいが音兵衛もおかしいと思う。
あと新しい家もどっから出て来た?
「そういうことからお釈迦様からおこぼれがあった山、おこぼれ山と呼ばれるようになったかも」
「眉唾だべな。そこ、稲荷神社あるとこだべな? 確か安徳山とかそんな名前じゃなかったべか?」
「ええい、我がこの地に伝わる昔話を伝えてやっておるのに元も子もない誰が付けたかわからん名前を言うのは反則かもっ」
「えーっ」
とりあえず、安徳山もしくはおこぼれ山と呼ばれるところに向かうようだ。
そこに何があると言う訳ではないようだけど、彼らがこの島を案内しようと色々な場所に連れて行ってくれているのは分かる。
なのでその気持ちをありがたく受け取ることにしよう。
このくらいなら仲良くしてもいいよね、有伽?