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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 神隠し
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捕獲部隊の悔恨

「ああ、くっそ!」


 思わず毒付く。

 三味長老は頭を乱暴に掻いてどかりと座った。

 ここは森の中で増援部隊を送り込んでいた神隠しがいた場所だ。


 陽動部隊との闘いを終えた面々が森の中を警戒していると、背後から来た増援の一人が大慌てで神隠し死亡の報告を持って来たのだ。

 すぐさま引返して現状を確認、自分たちが相対した学生たちが陽動部隊だということに今気付いたのである。


「兵法の基本じゃねぇか、相手は逃亡犯一匹だと思って油断した。くっそ、うぅわぁんんんっ、あの野郎報告が間違ってんじゃねぇかぁよぉっ!!」


 近くにあった木を蹴りつける。

 憤慨しても意味が無いとは分かっていても、やらざるを得なかった。


「だぁれが一般人だってぇ。あいつら普通に敵じゃねぇかよぉ。学生全員ブッコロ案件だぁ、なぁオイ、元しつちょぉーさんよぉ」


 不意に感じた気配に首だけ振り向けば、三味長老の元へとやって来る元室長葛城来世の姿。

 怒りをぶつけるような顔で睨みつけるが、来世はひょうひょうとした顔で受け流す。


「やっ、三味長老久しぶり」


「元室長ぉ、貴重ぉな神隠しが死んだんだけどぉよぉ?」


「知ってる。やられたねぇ」


「あんたの情報がありゃぁ問題無かった、と思わねぇのかぁ? あぁ?」


「俺の情報なんてたかが知れてるさ。現に彼らは自主的に動いただけだし、作戦行動時に伝えに来たところで反応出来なかっただろ」


「そぉれぇでもぉ、陽動だと分かってる陽動なんざ放置で助けにいけただろぉがよ」


「ソレは無理だね。頭上から一撃。誰かが気付いた時にはもう彼は死んでた。今回は妖少女を甘く見た君の失策だ」


 真剣な目で伝える来世にぐっと息をつまらせる。

 三味長老も分かっていた。

 例え連絡が来て陽動を放置してこちらに来たとしても、自分が神隠しを救えたとも思えない。あるいは、二人揃って潰されていた可能性もあるだろう。


 高梨有伽のスペックを上方修正しなければならない。

 彼女は既に闘い慣れている。

 暗殺部隊との闘いに慣れているからこそ、捕縛部隊の素人程度では殺しきれないのだ。


「つまり、こちらも覚悟決めろってぇ事か室長」


「ただの楽な捕縛と思わない方が良いね。形状を残そうなんて思ってると、君が死ぬよ?」


「ちっ、しゃぁねぇな。あんま俺の力使いたくねぇんだよ、周辺被害がやべぇしよぉ」


「後で始末書確定かもね」


 くっくと笑う来世。

 せいぜいがんばってくれ。と去っていく。


「元室長、あんたこの後どーすんだ?」


「向こうにいるよ? 俺は有伽が大好きだからねー」


「かぁー、まぁたあんたの悪い癖かよ!? 殺害対象に惚れるとか馬鹿じゃねぇか」


「何とでも言うが良い。有伽とは運命の出会いだと思ってんだよ、ああ、あの娘が俺の彼女になってくれたらなぁ」


「つって、次の殺害対象出来たらそっちに惚れ込むんでしょうが、その内死にますよ?」


「好きな相手に殺されるならそれはそれで良い結末だと思わんかね三味長老」


「思わんねぇ、どんな良い女よりもテメーの命が大事っすわぁ。命を大事に、ってなぁ」


 げひゃひゃと笑う三味長老に背中越しに手を振って、来世は森の向こうへと去っていった。

 怒りがマシになった三味長老はその場にしゃがみ込む。

 正直、被害は甚大だ。だがまだ立て直せる段階だ。


「おいそこの兵士ぃ、全員集合させて点呼ぉー、残ってる奴何名いるか報告してくれぇ」


 今やるべきことは怒りに任せて八当たりすることじゃない。

 早急に軍を立て直し、高梨有伽捕獲、あるいは殺害を行うことだ。

 さぁてどうやって肉体を捕獲するか。


 今回はしてやられたので次はこっちから攻め寄せて地獄を見せてやるべきか。

 協力者の学生共も仲間が殺されて行くと分かればさすがに協力しようとは思わなくなるかもしれない。

 そうなれば高梨有伽は行き場を無くして逃亡状態に逆戻り。

 そこを叩けば……


 考えついた作戦にニタリと笑みを浮かべる三味長老。

 自身の能力を使う程でもなさそうだと味方に責められ逃げまどう高梨有伽を思い浮かべほくそ笑む。

 最悪だよなァ。最悪な戦法だァ。自分で自分に言い聞かせ笑いながら立ち上がる。


「待ってなぁ高梨有伽ァ。テメェがどういう存在か、ちゃぁんと教えてやるぜぇ。真の味方なんざぁいやしねぇ。テメェは薄汚たねェ逃亡者でしかねぇんだってなぁ」


 男の笑いが響き渡る。

 森がざわめき兵士達が集って行く。

 無数に居並ぶ兵士の群れに、男は獰猛な笑みを浮かべて伝えた。


「点呼確認、このメンバーが俺達の全てだ。これより学園を急襲する。敵は高梨有伽、そしてソレに味方する妖使いと人間の反逆者どもだ。全て撃ち殺して構わん。さぁ、宴の始まりだぁっげひゃひゃひゃひゃっ!!」


 もはや闇に潜み森に潜み獲物を待つだけは止めた。

 これよりは狩りの時間だ。獣の如く相手の住処に押し入って根こそぎ奪い殺し、更地に変える。

 悪魔の牙が学園へと向けられたのだった。

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