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妖少女Ⅱ  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 神隠し
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撤退作戦

「ヤバい、鋒鋩先輩か常思慧さん、側面の迎撃向かって。回り込まれるっ!」


「無理だ、今俺が抜けたら崩れるぞ!」


「こっちも無理っ」


「衝立で何とかしてるけど、長くは持たないぞ!?」


 陽動部隊の面々は今、崩壊への第一歩を歩み始めていた。

 理由は簡単、人を殺したことが無いから、そして、殺す威力を持たないからだ。

 倒しても倒しても増えて行く敵兵士。


 死んだわけじゃないから昏倒させても意識を取り戻して向かって来る。

 同士打ちも慣れて来たのか殆ど無くなり、影女や闇子さんを見分け始める。

 銃弾を打つだけだから学生たちに近づく必要もなく、撃てば学生たちは逃げるか避けるかしなければならないため、妖能力で相手を狙うことも難しくなり始める。


「ったく、焦らせやがって、相手はただの学生どもだ。テメーらは殺せる。相手は殺す覚悟も力もねぇ。同士打ちにさえ気を付けりゃぁ安全に勝てる相手だ。落ち着いてやれやぁ!」


 三味長老という司令塔が健在なため、立て直しも作戦の練り直しも速く、順調に行っていたはずの陽動はすでに敵兵士達に効かなくなりつつあったのである。

 衝立は妨害になるが乗り越えられたり回り込まれたり、銃で撃つことで圧し折られることでも突破される。

 脛擦りに倒されても起き上がればいいだけだ。


 面霊気が危険ではあるが、これは面を割ればいいと分かっているので面を付けた兵士はナイフの柄で顔面を叩かれる。

 雪童子は銃弾で破壊され、音楽は銃声でかき消され、大坊主と塵塚怪王は手榴弾で粉砕される。

 次々に突破されて行く陽動部隊。


 こうなると死が近づくことで焦りが生まれる。

 暮阿の妖能力でなんとか敵の接近を防いでいるが、兵士の数が多過ぎて手が回らない。

 衝立の乱立、敵の分断、新たに作り出した塵塚怪王と大坊主での迎撃。

 皆が必死に妨害をするが、兵士の数は減ることなく増える一方、次第に戦線を維持できなくなってくる。


「これは……マズくないか?」


「陽動としては上手く行ったってところね。そろそろ撤退を視野に入れないと」


「撤退? どこにだよ皆木先輩、もう殆ど包囲陣完成してんだぞ!?」


「大河、アンサー君に脱出路!」


「ごめん、脱出不可能って言われた」


「役立たねぇなオイ!?」


「全員、密集、もう四の五の言ってられない、殺す気でやるしかないわ!」


「こ、殺すって、流石にそんな……」


「なら死にたいの鋒鋩っ」


 弱気の傑に暮阿が叱咤する。

 とはいえ、人を殺せ、となるとさすがに躊躇する面々、妨害だけのつもりだっただけにこの選択だけは選びたくないのだ。

 しかし、そう言っていられない状況なのは確かだ。


 このまま手をこまねいていれば、自分が、あるいはすぐ横にいる友人が殺される。

 皆、選択してはならない一手を選択せねばならないのかと焦りを覚える。

 徐々に近づく銃弾。

 誰か一人が選べば皆も次々に殺人を犯し、躊躇わなくなるだろう。


「ここまで、ね」


 だから、彼女はそれを地面に置いた。

 ズダンっと勢い付けて、まるでカメラワークが右から左から真正面から置く場面を撮影するように、皆の注目を集めるように設置した。

 緑ざわめく森の中。一瞬の沈黙。


 木々の合間にある枯れ草と生い茂る草花の中、一つの便器が鎮座する。

 白く輝く光沢のボディ。

 便座カバーなど必要としない徹底された機能美のみを追求した至高の一品。

 今、森の中心にしっかりとご降臨あそばされた。


「ちょ、ちょっと渡嘉敷さん?」


「全員、便器に飛び込んで」


 皆して一瞬思考を放棄した。

 しかし、直ぐに気付いた彼女の相方、紫乃が率先して便器に飛び込む。

 次の瞬間、彼女の姿が掻き消えた。


「なっ!?」


「私がこっちの配属に立候補したのは脱出のためなのです。はい、皆入った入った」


 半信半疑ながら、一人、また一人と入って行く。

 刈華が必死に雪童子を生成して殿しんがりを務める。

 やがて、残りが刈華と縷々乃だけになる。


「では、行きます。死なないでください」


「さすがにあんな銃撃受ける気は無いよ、はい、入った入った」


 刈華が飛び込むのを確認し、縷々乃もまた便器へと飛び込んだ。

 一瞬遅れ、無数の銃弾が便器の上を通過して行く。

 しかしそこには何も無く、空気を引き裂き素通りしていった。


「消えた!?」


 兵士達が急いで便器の元へやって来る。

 銃を構えて周囲を警戒し、そして恐る恐る便器を見る。

 森の中にただ一つ。ぽつんと残された便器は、まるでそこにあることを誇らしげに堂々と口を開き使用者を待ち望んでいた。

 当然、妖能力者のいない便器などただの便器でしかなく、使用しても野に放たれ、水に流れることは無い。

 されど、その便器は……森の中、自己を主張するように兵士達の前に鎮座し続けるのだった。

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