見敵必殺
神隠し捜索組は私こと高梨有伽(垢嘗)、近衛雄也(迷い家)、赤峰根唯(座敷童子)、小出葛之葉(妖狐)、桃田太郎(桃太郎)、川北奉英(浦島太郎)、小星唯(金太郎)、樹翠小雪(氷柱女)、射魏楠葉(泥田坊)、三枝秋香(水虎)である。
私達は森から離れた場所を、根唯の幸運力を頼りに索敵していた。
森で襲撃があった際に増員が来たのが北側だったのでその辺りを重点的に探るつもりだ。
ただ、ここにいるのは三太郎や水虎の接近系妖使いばっかりなので、銃弾に晒されるとちょっとヤバい。
一応葛之葉の幻術と楠葉の泥防御でなんとかするつもりだし、最悪でも迷い家で脱出を考えているのだが、さて、この面子で何とかできるかどうか。
近接攻撃に関しては充実してんだけどなぁ、これ、誰か死人でるんじゃないか?
頼むぞ根唯、あんたの幸運力に掛かってるからな。
私達は北側の海沿いからゆっくりと森の近くを捜索、それで見付からなければ森の中に入って行くつもりだ。
ただ、森の中だと音が隠せないのでちょっと身バレが速くなるかもしれない。
どちらが先に見付けるか、の闘いになりそうだ。
「どう、根唯? 何か反応とかある? どっちに行ってみたい、とか」
「んー、腕取ってみたけどわからんなぁ?」
「んっふっふ。私が探索するよー有伽?」
「あんた氷柱が無いと分かんないでしょ。冬ならともかく今氷柱は無いわよ」
「うぐっ、む、向こうで刈華が雪原にしてるから向こうの状況はわかるもんっ」
こっちには無意味だろっつーの。
誰かなんかないのかね?
「とりあえず、周囲に敵がいるかどうか分かればいいんだろ? どうにも妖能力探査は無意味みてーだし。ちょいと釣りしてみるわ」
釣り!? ちょ、川北なにトチ狂ってんの!?
驚く私を放置して、奉英が釣竿を取り出し森に向けて釣り針を投げる。
本当に森で釣りする気だこいつ!?
気違いか? と思ったんだけどよくよく考えればこいつの妖能力は浦島太郎。何かしらの能力があるのかもしれない。
思い直して一応期待はせずに待つ。
目を閉じて精神統一した奉英。しばしの静寂。森の揺らめきがゆっくりと時を刻んで行く。
「見付けた」
かっと目を見開いた彼はニタリと笑みを浮かべる。
マジで見付けたのか!?
森で釣りして敵対者見付けるとか何もんだこいつ?
「釣りってのは微細な振動を頼りに掛かったかどうかを調べるんだ。糸を通して遠くの状況を調べるって奴だな」
こんなので分かるとか浦島太郎の妖使い意外と凄い?
ただ助けた亀に乗って海入ってたお爺さんじゃなかったのか!?
「こっちだ。ついて来てくれ」
糸を回収して竿をしまった奉英に案内されて、私達は森の中へと分け入っていく。
こっちから洋館側に向かう位置だが、どうやら森の中で敵の増援部隊を量産しているらしい。
できるだけ音を立てないように歩いて行く。
どうでもいいが泥田坊の泥、先頭をゆっくり進んでるんだけど、こいつ凄いな。泥の中に葉っぱとか入ったあとは音も鳴らさず泥だけを残して移動していくぞ。
御蔭で重くなった葉っぱたちは私達が触れてもがさがさという音が鳴らなくなった。
ゆえに、泥田坊を先頭にしてゆっくりと一列になって進む。
泥田坊自身は楠葉が視界を共有できるらしいし、泥田坊の周辺の土を水で泥化させることで泥田坊を持続させる秋香の水虎が泥の合間から目を光らせて周囲を探っている。二人の視覚で捜査することでかなり注意深く索敵できるようだ。
しばらく歩いて行くと、無数の移動音が聞こえてくる。
どうやら本当に当たりらしい。
このまま真っ直ぐ行ったところに敵本陣があるようだ。
「あそこだ」
「あまり声を出さないで川北先輩」
「いる、わね。また殺すの? 高梨先輩」
不安げに、秋香が尋ねてくる。
「一度私は銃で狙われてんのよ。殺さなきゃ殺される。秋香はここで見てればいいわ。殺るのは、私」
舌を伸ばして近くの木にしゅるんっと飛び移る。
音はヒルコが泥田坊の要領で消してくれた。
なかなか為になるな泥田坊の操作。
「アレか」
「神隠し……別のどこかから兵士達をこっちに連れて来てるんだね」
私に似た声で耳元で囁かれる。もう慣れてるからいいんだけど、急に話しかけないでヒルコ。
「やるよヒルコ?」
「一撃必殺。これで行こう有伽」
草薙の剣をヒルコから引き抜く。
やるぞっ!
気合とともに真上から飛び降りる。
おそらくそいつは気付きもしなかっただろう。妖能力を探知してれば直ぐに気付けただろうに、探知出来ないタイプか? こっちも探知は出来なかったけど、もしかしたら思兼神と同じタイプかもしれない。
森の中、妖能力で兵士が通るゲートのようなモノを作り出していた男の脳天に七つに別れた剣先が突き刺さる。
「かぺ?」
「なんだとっ!?」
術者が死んで途切れる神隠しの道。
ぎりぎりこちらに来れた兵士は良かったが、急に閉じたせいで、腕だけこちらに来ていた兵士が腕だけを残して扉と共に消え去った。
ソレを見た兵士達が驚き慌てて尻持ちを着く。
「あ、て、敵襲――――っ!!」
尻持ちついた男の一人が私に気付く。
見上げた先に【神隠し】の頭上で剣の上に乗ったまま彼を見降ろす私の姿に気付き、びくつきながらも必死に声を張り上げた。
全員が銃を構えて私に向ける。
私が舌を吐きだし対面の木に飛び移るのと同時に、【神隠し】が蜂の巣になった。