膠着状態
「いやー、危っな」
荒く息を吐いて逃げ込んだ私達は、思わず呟く。
まさか後続部隊が出てくるとは思わなかった。向こうもそれなりに頭が回るようだ。
悔しいけど裏の裏を掻かれたようである。
折角洋館を解放したのに直ぐに取りかえされてしまった。
今度は洋館内に入ることなく手前の森で木々に隠れながらこちらの隙を伺っている。
ゆえに迂闊に動けない。
とはいえ、洋館の天井からは天井下りが狙っているので下手に動けない。
私達の能力も脅威みたいで下手に動けない。
ゆえに彼らもまた、動けない。
ここに膠着状態が確定してしまった。
ただ葛之葉の知り合いに会いに来ただけのはずなのに、なんでこうなった?
いや、一応事前に奴らが居ると分かっていただけでもいいか。
あいつら全然妖能力探査に反応しないんだよね。
妖能力使って来る気配もないから捕縛部隊は殆どが一般人なのかもしれない。
「今回は諦めた方が良いかもしれんのぅ」
「それより先輩、このまま膠着が続くと不利です」
「あの面子を殺す位なら問題なさそうだけど?」
「後続部隊があれだけであれば、ですね。どれだけいるか分かりません。長期戦はこちらの不利です」
確かに、かなり遠くを回り込んで来られたら完全に詰む。
とはいえ人里に戻れば被害は甚大だ。
「仕方ありません、こちらも援軍を呼びましょう」
「援軍? 誰か来んの?」
私は学園の生徒を思い出す。
うん、役立ちそうなのが居ないぞ? 桃太郎も金太郎も浦島太郎も水虎も近接戦だろうし、鉦五郎や影女が来ても意味は無い。
コックリさん? アンサー君? 花子さんに闇子さん。これで銃器相手にどうしろと?
金魂はお金関連だし、獏は眠っていない相手に意味は無い。しらみゆうれんは水関連、ぴしゃがつくは追跡専用、枕返し呼んでも意味は無いし、ミシゲーなんざしゃもじである。
脛擦りが脛こすったところで転倒させる程度だし、アカナーは平和主義でしょ? 琵琶牧々に琴古主は音楽関連。
今役に立ちそうな存在ってなんだろう?
面霊気? いや、無理か。目くらましにはなるかも?
衝立狸。衝立なんざ直ぐに蜂の巣だ。
雪女と氷柱女、塵塚怪王くらいだろうか?
呉葉は妖力使えるか? あとは大坊主くらいか。
こうして考えてみると皆の能力微妙に使えないな。
今は助っ人に来られても迷惑にしかならなそう。
どうするつもりだ楠葉?
せめて朧車とか樹木子とか不落不落とか居ればなんとかなったかも……うん、全員敵だな。
ダメだ、自分たちで何とかした方がよさそうだ。
しばし待つ。楠葉が連絡したらしい存在がやって来た。
「大丈夫だべか!?」
「いやー、銃で撃たれてるんだって? 大変だな」
根唯と雄也がやって来た。
座敷童子と迷い家である。
こいつらでどうしろと? 抗議の視線を送ってみると、楠葉が迷い家出せといきなり雄也に告げる。
言われるままに出現させる迷い家。
楠葉に促され、全員で家の中へ。
玄関閉じて亜空間に逃げ込む。
「いや、逃げんのかい!? 可能だけども……」
「任意の場所に出られるんですよね? とりあえず波止場に向かいましょう。これ以上の増援があると危険ですから、まずは確認です」
「そういうことですのね」
あ、土筆も既に帰ってたのか。多分迷い家出現と同時にこちらに来たな。
「とりあえずここなら安全ですし、相手がどういう状況か確認する必要もあります。土筆さんは情報収集していたんですよね」
「ええ。ある程度敵の人数は把握してますわ。有伽様。増援はまだ増えてるみたいです」
「うわぁ。嫌な予感程よく当たるなぁ」
「撃破したのがすでに20程。増援が20、後続に20居ました。隊長と思われる一人が残ってますので敵兵力は今の所41人。どっから出現してるのかも突き止めた方が良いですわね」
「どっから増えてるか? かの?」
「つまり、妖能力で兵士を量産、あるいはこの地に呼び入れてる奴が居るってこと?」
「おそらく、ですが。任意の場所に移動させる。おそらく都市伝説系の妖使い、神隠し辺りが動いていると思いますわ。アレ、確か三班にいましたもの。パートナーは……確か三味長老、でしたわ」
三味長老と神隠し、か。
また面倒臭そうなのが出て来たな。
でも、三味長老って音楽系妖じゃなかったっけ?
「叩くのは後方支援の神隠しが先じゃの」
「だけどどうやって?」
「折角だべ、皆で考えてみんだか?」
「んじゃとりあえず学校にでようか皆と連絡取って話をしてみよう」
グループ電話で知り合い全員と話をするようだ。
そう、だなぁ。三人寄れば文殊の知恵っていうし、現状を打破する方法、私以外の誰かが知ってるかもしれない。根唯の幸運に掛けてみるか。