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1、僕が東大に落ちた日

 時は平成も終わりを告げようとするこの三月、その十日のことである。


 僕は東京大学理科一類を受験して、この日はその合格発表日であった。


 本試験に至るまでの模擬試験の成績は芳しくなく、東大受験に特化した名門校や塾にも通わず、それでも、学校に頼りながら死ぬ気で勉強を続けてきた。そして東大の過去問はもちろんのこと、東大模試も何セットも解き、これ以上は何もできない、といった境地まで達しての受験であった。それゆえ自己採点の結果を加味して合格不合格は五分五分くらいであったものの、正直受かるだろうと思っていた。


 合格発表を見にキャンパスへ電車で向かう。SNSで勉強アカウントの東大志望のフォロワーたちの投稿を手を震わせて見ながら、落ちる?受かる?の三文字ずつを頭に交互に浮かべて、そのたびに息をゆっくり吐いていた。周りに妙な目で見られないようにマスクで口元を隠しながら。


 駅に着いたら駅前の飲食店で何か口にしよう、と思っていたのだがどうも緊張と興奮で食欲がわかず、駅構内のコンビニで鮭と昆布のおにぎりを計二つだけ買ったのを覚えている。


 駅を発ってからは試験当日も通った道を歩いた。歩調が興奮のあまり速まった。しまいには胸の鼓動の大きさに耐えられず、その音をかき消すために重いコートを揺らしながら走り出す。友達からの、結果を尋ねようとしたメールの着信のバイブレーションは着地の振動ですべてかき消されてしまっていた。東大の合格発表の時間は十二時半。この時まだ十一時半。何も急ぐことはないが、結果を気にしながらゆっくりと歩くほうが苦しいというものである。こんな時間に走って息を切らす受験生なんか僕くらいしかいないんだろうな、と考えてちょっとだけ口元に笑みを浮かべつつ、足の回転は更に速まった。


 息を整えながらキャンパス内に入り、合格者の受験番号が今、まさにそこに掲示されているという掲示板の手前の待機列に並ぶ。昼食を食べねば、と鮭のおにぎりを取り出す。SNSをまた開いて、合格発表直前でどんどん更新されていくタイムラインをおにぎりをほおばりながらどんどん下に流す。


 下に流れるタイムラインは僕の緊張度合いに応じてそのスピードを増していき、ついにはおにぎりを食べることさえ苦しくなってきたので、残り一口か二口くらいのところで包装のビニールに包んでコンビニの袋に放り込む。この時十一時五十五分。タイムラインは更に速度を増した。


 緊張に耐えられず僕は頭の中で自分の得点計算を始める。

「国語は低くて45、数学は50・・・どんなに低くても315点、去年は合格点が319点で去年より難化して315点くらいの合格点になるはず・・・大丈夫、受かってる・・・」


 ちなみにインターネット上には12時ジャストに結果が発表される。現地とネットに30分のタイムラグがあるのだ。そしてタイムラインが最速になろうとしていた時、僕は自分の腕時計を見た。


「この時計20秒遅れてるから・・・えっと・・・あと15秒か・・・。14、13・・・・・・2、1・・・ゼロ」


 ---出た!!!


 フォロワーの一人がこう呟いた瞬間、タイムラインが合否結果で埋まってゆく。


 ---受かった!!

 ---落ちた・・・

 ---やったあああああああ!!


「よっしゃ受かったああああああああああああ!!!」


 振り向けばわざわざキャンパスに来ているのにネットで結果を確認し周りをはばからずに喜びを爆発させる輩の姿もあった。


 僕はネットは見ないつもりだった。だが、こんな様子であと30分など耐えられる気がしなかった。

 

 僕は急いで携帯を操作し、とりあえず合格点を見た。



 理科一類、334点。



 一瞬凍り付いた。なんで?予備校は難化だって言ってたのに。採点が甘いのか?

 不合格かな?という思考が頭をよぎる。


 嘘だ。


 信じられるわけがない。結果を見るまで分からないだろ?


 興奮を冷ますとどん底に落ちる気がして、勢いに任せて合格者番号一覧を開く。





 番号はなかった。





 ---は?


 思考が止まる。急速に体が冷めていく。携帯を持つ手に力が入らない。そのまま手をダランと下におろす。周りの時間と切り離される。息が止まる。


 不思議と涙は出てこない。ただ、終わった、という気持ちだけが心の中にあっただけだ。


 糸の切れた操り人形になって中空に放り出された気分だった。ただ、落下はせずにふわふわとそこにとどまっているような。


 口を開けてぽかんと空を見上げていたら、合格発表待機列が動き出した。


 ---ああ、十二時半になったのか・・・


 空虚な気持ちで人の流れに身を任せて掲示板を見る。もちろん番号はない。


 そのまま歩いて行ったらキラキラのチアガールたちが眩しいほどの青い衣装を身にまとって「合格おめでとう!!」とばかりに踊っていた。


 あまりにそれが眩しすぎて、そのなかに駆け込んでいく合格者を見るのに、心の中に鈍い痛みすら覚えて、僕はそそくさと列から抜け出し、「順路」という看板を無視して外の門めがけて歩いた。


 思い出したように学校と両親に報告のメールを入れ、門の外に出る。

 

 とりあえず駅に向かう途中に公園があったので、そのなかのベンチに腰を下ろした。


 公園内に誰もいない。見たところ人通りもなさそうだ。


 ここなら安心できるな、と思った刹那、大粒の涙が目から零れ落ちた。

 先ほどから中空をさまよっていた操り人形は重力に任せて自由落下を始めたようだ。


「なんで!なんで落ちなきゃなんないんだよ!あれだけ過去問解きまくって、模試も解きまくって!なんで落とされてるんだよおおおおおおお!!」


 落ちたら私大に行くつもりだった。だがおんおん泣きじゃくりながら決意は固まっていた。



 ---俺を落としやがった東京大学、許さん、許さんぞ・・・

落ちました。

こんな物語的に文章書くのは今回だけです。落ちた悔しさというか感覚を忘れた瞬間に僕は堕落する気がしたのでこのように書きましたw

勉強記録というかブログというか、そんな感じに書いていきたいかな、と思います。

原則毎日更新で。サボったこともよかったことも記録します。

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