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そこは誰もいなくなった  作者: 椿 雅香
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親たち(2)

少し短いですが、キリが良いのでアップします。


 ところが、俺が中学二年のとき、大事件が起きた。



 件のスーパーが撤退したのだ。


 潰れたとかそういうんじゃない。採算がとれないからって、店を閉めたのだ。


 かつてスーパーだった場所は、更地になった。何もない、きれいな空き地になったのだ。

 

 近所の子供たちが、野球やサッカーするには丁度良いけど、仕事の場所も買い物の場所の何もかもなくなってしまったのだ。


 土地の所有者は、別の借り手を探しているらしいが、あんな広い土地を借りる人なんかそうそういないだろう。


 結局、今にいたるまで、スーパーの跡地は、空き地のままだ。


 スーパーが撤退したので、お袋は職を失った。


「私に何の断りもなく勝手に店閉めるなんて、許せない!

 俊哉の学費がかかってるのに、ひどいわ!」

 

 お袋は、地団駄踏んで悔しがったが、一介のパートが何を言っても聞いてもらえるはずもない。

 正規社員だって、転勤になったり、田んぼや家を離れられないからって退職したりしたのだ。


 そして、お袋は次のパートを探すべくジタバタしたが、そうそう仕事が転がってるわけもない。

 ということで、次の職が見つかるまで、とりあえず専業主婦に戻った。

 

 仕事がなくなったお袋は、教育ママに変身した。

 想定内のこととはいえ、面倒なこと限りない。

 勉強しろ、勉強しろ、やいのやいの、とうるさくなったのだ。



 あの日から、俺の受難の日々が始まった。


 でも、お袋の失業なんか、まだまだ小さなことだった。



 あのスーパーがなくなったことは、町に重大な影響を与えたのだ。


 件のスーパーがウチの町に来たせいで、魚屋の魚正を始めとする地元の小売店が根こそぎ潰れていたのだ。

 かろうじて衣料品店のカツミは残ったものの、八百屋、魚屋、肉屋、豆腐屋といった生鮮産品の店が、見事になくなっていた。


 人々は頭を抱えた。


 お袋だって同じだ。


 今までは、仕事帰りに職場で買い物をすれば良かった。動線からいっても、それが一番手っ取り早くて合理的だ。


 それが、スーパーがなくなったせいで、買い物するには郊外のロードサイドのスーパーまで行かなければならなくなったのだ。

 

 豆腐一丁買うにも、車で出かけなけりゃならない。ガソリン代だけで、手痛い出費だ。


 でも、車がある人はまだ良い。車に乗れないお年寄なんかは、品揃えも不十分な地場の小さな店――八百屋が干物や乾物、ハムやソーセージも売ってるみたいなやつ――で買い物するしかない。

 それだって、結構歩かなけりゃならないのだ。

 天気の良い日なら良いけど、雨の日もありゃ、雪の日もある。雪の日なんか、お年寄が転んで、それきり寝たきりになるってこともよくある話で、雪国では、遠いということは、それだけでリスキーでとんでもないことなのだ。


 

 このときから、母の口癖が変わった。

 

 それまで、「俊哉、お母さん、あんたの学費のために頑張って働くから。あんたは一生懸命勉強しなさい」だったのが、「俊哉、あんた、大学行くなら、国公立よ。下宿代だけで月10万要るって話だから。私学なんか、とんでもない」と言うようになったのだ。


 

 あのなあ、お袋。

 誰も、大学行きたいなんて言ってないって。






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