61.
三段担いで入ってきた冬乃に、
まだ準備中で使用人だけが動き回っているその広間で、茂吉が驚いたような顔を向けた。
「冬乃はん、あんた女子なのに力持ちやな」
(はは)
冬乃は苦笑いを返す。
「まあここで働くんやったら、そんくらいの力あっても意味無いわ。こない男ばっかの所に居て、あんた気いつけてなあかん」
もう一人の使用人の籐兵衛が、たすきに括りつけた手ぬぐいで軽く汗を拭きながら、そんなことを言ってきた。
「はぁい・・」
(組の人たちってほんと信用無いなあ・・)
もう冬乃は呆れて失笑して。
いや、組内の沖田でさえ、心配しているくらいだ。
男集団で住んでいるとそんなものなのだろうか。
だが冬乃の心内は、今それどころじゃない。
膳を並べながら。
八木家のお隣である前川邸を借りた、この広い屯所で、同じ屋根の下のどこかに今も沖田が居て、
あと少ししたら広間に現れ、冬乃の作った食事を(全部作ったわけじゃないけども)食べてくれるのだと思うと、
それだけで顔がにやけてしまい、素面を保つのに先ほどから苦労しており・・冬乃はそんな顔面筋肉の調整に掛かりっきりなのだった。
(幸せすぎる・・)
こんなふうに沖田と同じ屋根の下で生活を共にすること、
いつかそれを当たり前に想う時がくるのだろうか。
ほんの少し前には、叶うと想像もしなかった生活。冬乃は未だ驚きを抑えられず、この”奇跡”に感謝してもしたりない想いで。




