56.
すれちがう隊士たちの視線を、あいかわらず滝のように浴びながら。
冬乃は沖田に連れられて前川屯所の門をくぐり出る。
昼下がりの秋晴れの下、広々とした田畑を左右に畦道をゆく。
ふわりと流れた風に髪がゆるく唇にかかって、冬乃は指先で払おうとした・・時、
「冬乃さん、尋ねますが貴女は・・」
不意に。沖田が振り向いた。
(・・・?)
唇に指先を遣ったまま動きを止めた冬乃を、見て沖田が一瞬息を呑んだ、・・ようにみえたのは気のせいか。
「・・・未来では、女性は髪をおろしているものですか」
「え?」
目を細めたと思いきや、まるで冬乃の姿を愛でるような表情を隠しもせずに添えて微笑んだ沖田を前に、
冬乃は、
唇にかかっている己の髪を指先に摘んで払いながら、どぎまぎして小さく頷いた。
「簪つけて結っている人のほうが少ないです」
答えながら。
今のような笑みを、沖田が自分にこれからも向けてくれる時があるなら正直、平然としてはいられそうにないと。冬乃は内心縮こまってしまった。
今も、さわさわと緩い風になびく冬乃の、長い黒髪がきらきらと陽光に煌めき。
「・・・昼間から髪をおろしているのも、いいもんだな」
独り言ちるように言い沖田が、また微笑む。
そんな表情、
(反則・・)
「・・・。」
目を逸らしてしまった冬乃の前、
沖田は冬乃の様子に何を思ったか、ふっと笑いを置き、そのまま促すように再び冬乃に背を向け歩き出した。
そういえば何か言おうとしなかったか、と首をかしげながら彼の後に続いた冬乃は、
ふと、髪をおろしている姿はこの時代の京では“はしたない” とされていたことを思い出した。
だが、
(どうでもいいか)
沖田が褒めてくれたなら、四六時中おろしていたい。
自慢の髪なだけに、沖田の今の反応が冬乃は嬉しかった。
冬乃は高等部にあがった始業式の初日に、千秋たちがそれまで以上に肌を焼いて髪を明るくする横で、サンスクリーンを揃え、黒髪に染めなおした。
それ以降、冬乃は一度も髪を染めることはしなかった。
むしろ代わりに、もって生まれた白肌に合わせ、さらさらでまっすぐな艶の黒髪をのばしたかったのだ。
かといってまだおちつくつもりもなかった冬乃は、黒のロングヘアに合う色のギャル服を選んで、千秋たちと遊ぶ時はいつも目元の黒メイクは続けたのだけども。
(にしても、のばしたな)
沖田の後ろを行きながら、冬乃は自分のおなかに届く長さで、きらきらと揺れている髪をつと見やった。
「そうだ、」
思い出した、と。
そんなとき沖田が再び、振り返った。




