43.
冬乃の前、沖田の背が一度も振り返らずに黙々と廊下をゆくのへ。
(沖田様・・)
先ほど聞いた囁きは聞きまちがいだったのかと、泣きたい想いで冬乃は俯いた。
責問。
それが確かに拷問を意味するのだと。
『ふたりとも本気じゃ、ねえだろうな。女子だぜ?』
先ほどの原田の、その言葉で冬乃には想像がついた。
(いっそ・・)
本当に逃げ出してやろうか、と。
冬乃は胸中思いつつ、だがすぐにそんな情を否定するより他なく。
もちろん帰りたい場所は、沖田の居る此処でしかないのだから。
「冬乃さん。今から尋ねることへ正直に答えてください」
不意に沖田が振り向いて。
冬乃は驚いて顔をあげた。
(正直に・・?)
「本当に、貴女は未来から来たのですか」
顔をあげた先に。
冬乃を一寸も逸らさずに見つめる眼差しが、
冬乃の応える全てから真実を読み取ろうと、構えていて。
「・・・はい。本当です」
信じて。
「どうか、信じてください」
「・・・」
(貴方にだけは疑われたくない)
他の誰に疑われても、貴方にだけは。此処に居る冬乃という存在を否定してしまうような、そんな眼差しで見られたくない。
「本当です・・」
ついには消え入るような声で呟いた冬乃を、沖田は表情の無いままに見つめた。
「ならば、“この世“ で貴女が頼れる場所はどこにも無いんですね?・・此処くらいしか」




