表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
336/372

69.



 これからも、慶喜を実質中心に据えての変革を、新政府の容で繋ぐべく模索する、土佐の容堂や福井の春嶽達、

 

 反対に、慶喜を政府内に据えたままでは旧来と変わらぬと憂い、排除ひいては武力討幕を志す、薩摩長州や土佐脱藩の浪人衆達、

 

 対して慶喜を政府に据えぬなど論外であり、この“謀反” を許したまま反幕派まして討幕派を新政府の中枢に据えては、もはや日本国がまとまる希望をも見出せなくなった、旧幕閣や会津達、

 

 

 さらにはその一方で、

 旧幕府として今その名を連ねながら、この先いずれ討幕を掲げることになる者達。

 

 

 そのひとつに、いま二条城に詰めている、例の水戸の在京組がいる。

 彼らは現時点では未だ、かろうじて旧幕府側の存在ながら。

 

 そして同じく徳川御三家でありながらも、既に長らく反幕寄りに傾倒してきた、あの尾張の慶勝がいる。

 

 先の大政復古では、親幕派である土佐の容堂や福井の春嶽と並び、新政府に登用されており、現段階では中立の彼らと同じくその立ち位置であるけれども、

 

 このさき帝が完全に討幕側の“手中” になるを受けて、国元の佐幕派家臣団を処断してまで討幕側につくことになるくだんの人だ。

 

 

 (それから・・・彦根・・)

 

 徳川重臣の藩、

 彦根こそ。藩主であり幕府の大老を勤めていた井伊直弼を暗殺されたのち、井伊の“失政“ の咎を一方的に負わされて、憂きめに遭ってきた藩だった。

 

 

 井伊政治の頃、孝明帝は、強引かつ性急に進められた“不平等” 開国の調印に憤り、

 再三に『幕府主導で諸藩一丸となって、攘夷の意のもと慎重な外交政策をおこなうように』との勅旨を出して訴えていたのだけども、

 

 最後のそれは、ずっと返答のない幕府にではなく、水戸藩へと託されたために、

 朝廷にとってはたとえ水戸へ託けた程度であったとしても、幕府にとっては『密旨』、つまり朝廷が正規の流れを飛ばした、まるで幕府を無視したかの前代未聞の事態として、大事になり。

 

 この勅旨を受けて奔走した水戸などの面々に対し、井伊は事態の収拾として処罰――世にいう安政の大獄――を強行、

 そして、それらが大元となって、井伊は水戸藩士らに暗殺された。

 

 つまり井伊は、幕府のために命を捧げたも同然の結末であったというのに、

 

 彼の死後に政治を引き継いだ、慶喜(当時は将軍後見職)や、福井の春嶽ら新たな幕閣が、直後に彦根へ与えた処遇も、

 その後に続く諸々の扱いも、彼らの働きを認めて救うものでは全く無く。

 

 

 徳川の忠臣たる譜代大名の筆頭でありながら、開戦において彦根が藩論一致で旧幕府を裏切った最大の理由は、その一連の遺恨にあるともいわれている。

 

 

 

 徳川方という点では、外様大名なれど親藩に近しき特殊な藩、鳥取藩も挙げられるだろうか。

 慶喜の兄が藩主でありながら、水戸同様、彼らは開戦後に討幕側へつくことになる。

 

 

 (もうひとつ・・)

 ここに数えるならば、

 親幕派と認識されてきた津藩も、外せないのだろう。

 

 王政復古以前から、京都付近にある要所警備の任についていた彼らは、

 王政復古後には、あくまで中立な立場としてその警固を続けていたはずながら、旧幕府側からは、かわらず親幕派と捉えられていた。

 

 反して彼らが、開戦後に帝を完全に擁した討幕側へと味方して、その立地的な要所から旧幕府軍を砲撃したことで、不意打ちの状況と相まって、戦さを討幕側の有利に大いに導くことになる。

 

 

 

 そして、

 勿論の事、ぎりぎりまで情勢を様子見していた大多数の藩も。

 彼らもまた、帝を擁した討幕側へと恭順し参戦することとなってゆき。

 

 

 この先の歴史の大流は、そうして開戦ののちに全ての者をいずれ否応なしに巻き込んで、

 遂には濁流の大渦へと変容してしまう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ