11.
「冬乃!!」
千秋と真弓が駆け寄る。そのなかに母と義父の姿は勿論、無い。
「改めておめでと!!」
今いちばん逢いたい人も、勿論いるわけがなく。
「・・逢いたい」
「イタイって、どっか打ったの?!」
周りが騒がしいせいでよく聞き取れなかった千秋が、驚いて冬乃の肩を掴んだ。
「え?」
当惑した面持ちで覗き込む千秋と真弓を、ふと冬乃は、我に返って見つめ、
「うん、・・」
(そういえば、確かに)
「痛い・・」
「どこ?!」
冬乃は首を振ると押し黙った。
(なんだろう、この痛み・・)
「冬乃、マジ大丈夫なの?」
再び首を振る。
「誰か呼ぶ?」
「頭が・・・」
「頭?どのへん?!」
真弓が瞬時に反応して、冬乃の頭に手をやった。
「何かに引っぱられてるような、カンジなんだけど、」
(ぼうっとする・・)
「引っぱられてる?」
千秋と真弓は顔を見合わせた。
「医務室に行こう。歩ける?」
「うん、・・」
(よく前が見えない・・・これは何?・・
・・・霧?)
「冬乃?冬乃、大丈夫?!」
「冬乃!!」
遠くで、千秋たちの叫ぶ声が聞こえる。
薄れてゆく意識のなかで、その声もやがて深い霧の壁に徐々に閉ざされていった。




